火打山の地質:二つの火山に挟まれた「火山ではない山」の秘密

登山記録

頸城三山のひとつ、火打山(2,462m)。「火打」という名前から火山だと思っていませんか? じつは筆者もそう信じていました。ところが調べてみると、火打山は火山ではありません

しかも隣には現役の活火山・新潟焼山と、カルデラを持つ休火山・妙高山が並んでいます。二つの火山に挟まれながら自分だけ火山ではないという、地質的にかなり個性的な山なのです。名前に「火」が入っているのに火山じゃないとは、命名した人に一言物申したくなります。

火打山 天狗の庭の池塘に映る山容
天狗の庭の池塘に火打山が映り込む。7月中旬でもまだ残雪が残る

海底だった岩がフォッサマグナの力で山頂へ

火打山の岩体は、約2,300万〜260万年前(新第三紀)に海底に堆積した堆積岩とひん岩(苦鉄質貫入岩)で構成されています。山中からは海生動物の化石も見つかっており、かつてここが海の底だった証拠です。標高2,462mの山頂で「ここは昔、海だったのか」と思うと、なんだか足元がそわそわします。

この海底の地層を山頂まで持ち上げたのは、フォッサマグナの力です。火打山は日本列島を東西に分断する巨大な地溝帯フォッサマグナの西縁、糸魚川-静岡構造線のすぐ東側に位置しています。約1,600万年前に始まった東西圧縮が、ユーラシアプレート北米プレート(オホーツクプレート)の押し合いによって海底の堆積層を隆起させ、現在の山容をつくりました。

火打山の地質 火山に挟まれた非火山体
頸城三山の地質構造。火打山だけが非火山体という異質な存在

両隣は火山なのに、なぜ火打山だけ違うのか

頸城三山を並べると、地質的なコントラストが際立ちます。

北隣の新潟焼山(2,400m)は、気象庁が常時監視する活火山で、2016年にも噴火しています。南隣の妙高山(2,454m)は約4万年前に活動した成層火山で、カルデラと中央火口丘(溶岩ドーム)を持つ典型的な火山体です。

この二つに挟まれた火打山だけがマグマの通り道を持たず、海底堆積岩が隆起しただけの山です。同じ山脈に並んでいても、地下にマグマの供給路があるかどうかで山の正体がまったく変わる。焼岳と穂高岳の関係にも通じる話ですが、火打山の場合は「火山に挟まれた非火山」というさらにユニークな立ち位置です。

火打山山頂から焼山方面の展望
山頂から望む稜線。奥に見える残雪の山が活火山・新潟焼山

火山が育てた高層湿原「天狗の庭」

火打山の最大の見どころは、稜線直下に広がる天狗の庭高谷池湿原です。池塘(ちとう)と呼ばれる小さな池が点在し、水面に火打山の姿が映り込む景色は、控えめに言って絶景です。何枚写真を撮っても「もう一枚」が止まりませんでした。

なぜ標高2,000mを超える稜線に湿原があるのか。その鍵は、皮肉にも隣の火山にあります。妙高山や焼山の噴火で飛んできた溶岩や火山灰が、火打山の緩斜面に水を通さない不透水層を形成しました。そこへ日本海側の豪雪がもたらす大量の雪解け水が流れ込み、行き場を失った水が湿原をつくったのです。

火打山自身は火山ではないのに、火山のおかげで湿原という最高の景観を手に入れた。なんとも世渡り上手な山です。

高谷池湿原と火打山
高谷池湿原の全景。奥に高谷池ヒュッテが見える

日本海の豪雪が山をつくり、湿原を育てる

火打山の地質と景観を語るうえで、日本海の存在は欠かせません。冬の北西季節風が日本海(対馬暖流)の上で大量の水蒸気を吸い上げ、2,000m超の頸城山塊にぶつかって膨大な降雪をもたらします。

7月中旬に登ったにもかかわらず、登山道のあちこちにまだ雪渓が残っていました。「夏山のはずなのにアイゼンいる?」と一瞬迷うレベルの残雪です。この雪がゆっくり溶けて湿原に水を供給し続けるからこそ、盛夏でも池塘が干上がることなく、高山植物が咲き誇る楽園が維持されているのです。

そしてこの豪雪自体が、約2,500万年前に日本列島が大陸から分離して日本海が誕生したことの産物です。大陸の裂開→日本海の誕生→豪雪→湿原の形成。地球規模の地殻変動が、火打山の池塘に咲くハクサンコザクラの一輪にまでつながっている。スケールの大きい因果関係です。

残雪と火打山の夏
7月中旬でも大量の残雪が残る。この雪が湿原の水源になっている

フォッサマグナとの位置関係

火打山を含む頸城山塊は、フォッサマグナの西縁に位置しています。糸魚川市内を通る糸魚川-静岡構造線は、火打山のすぐ西側を南北に走っています。フォッサマグナは北米プレートとユーラシアプレートの境界にあたり、約2,000万年前に日本列島が大陸から分離した際に形成されました。

この大構造帯の近くに位置するからこそ、頸城山塊には複雑な地殻構造が生まれ、焼山や妙高山のようにマグマが地表に達する火山と、火打山のようにマグマの通り道を持たない非火山体が隣り合うという、ユニークな地質配置が実現しているのです。

火打山 周辺地形図
火打山周辺の地形図(出典:国土地理院)

夏の火打山:池塘と残雪の別世界

7月中旬の火打山は、残雪と高山植物と池塘が共演する最高の季節です。登山口から樹林帯を抜けると、突然視界が開けて天狗の庭の湿原が現れます。この瞬間の感動は言葉では伝えきれません。思わず「うわっ」と声が出ました。

山頂からは360度の大パノラマ。北に焼山の噴気が見え、南に妙高山のどっしりした山容が構え、西には日本海がうっすらと光っています。火山に挟まれた非火山の山頂で、湿原を見下ろしながら「この山は火山じゃないのに、火山のおかげでこんなに美しいのか」と妙に感心しました。

火打山山頂標識
火打山山頂。標高2,461.7m。奥に霞んで見えるのは日本海

まとめ:火打山で体感するフォッサマグナの力

火打山は、フォッサマグナの力で海底から押し上げられた堆積岩の山が、両隣の火山から溶岩と火山灰の贈り物を受け取り、日本海の豪雪で湿原を育てたという、地球の偶然の産物が重なり合った山です。火山ではないからこそ、火山とは異なる穏やかな稜線と豊かな湿原を持ち、「花の百名山」と呼ばれる植物の楽園になりました。

同じフォッサマグナの力で生まれた山でも、焼岳(活火山)立山(氷河の山)とはまったく異なる地学の物語がここにあります。

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