噴火 アーカイブ - 地球を感じる山登り 山の成り立ちを地質学から読み解く登山ブログ Tue, 29 Sep 2026 01:09:27 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=7.1.3 https://chikyu-yama.online/wp-content/uploads/2026/04/favicon_tozan-150x150.png 噴火 アーカイブ - 地球を感じる山登り 32 32 富士山が噴火したら何が起きるのか——318年前の宝永噴火とハザードマップの地質学 https://chikyu-yama.online/fuji-eruption-hazard/ https://chikyu-yama.online/fuji-eruption-hazard/#respond Tue, 29 Sep 2026 01:09:27 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=2075 富士山最後の噴火・宝永噴火(1707年)では、江戸にも火山灰が積もり、噴火は2週間続きました。次に噴火したら何が起きるのか。降灰の記録値、2021年に改定されたハザードマップ、そして「なぜ富士山は必ずまた噴火するのか」を地質から解説します。

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富士山は、約5,600年の間に少なくとも180回以上噴火してきた、まぎれもない活火山です。最後の噴火は318年前の宝永噴火(1707年)で、江戸の市中にも火山灰が積もりました。「次の噴火」は起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題であり、そのための想定が2021年改定の富士山ハザードマップにまとめられています。

この記事のポイントは3つあります。①宝永噴火の実測記録から、噴火の影響範囲が具体的に分かること。②2021年のハザードマップ改定で、溶岩流の想定が神奈川県まで広がったこと。③富士山が噴火を続ける理由は、3枚のプレートが出会う場所に立っているという地質構造そのものにあること。

318年前に実際に起きたこと——宝永噴火の記録

1707年12月16日、富士山の南東斜面が裂け、黒い噴煙が立ちのぼりました。内閣府の災害教訓報告書によると、噴火はその日のうちに約100km離れた江戸に灰を降らせ、昼でも暗くなったと記録されています。噴火は断続的に約2週間続きました。

降った灰の量は場所によって桁違いです。火口から約10kmの小山町(静岡県)で約300cm、約50kmの伊勢原(神奈川県)で約30cm、約100kmの江戸(現在の文京区)でも約2cm、房総半島の市原まで飛んで約8cm。3mの火山灰は家を押し潰す量で、実際に火口周辺の村は埋没しました。さらに深刻だったのは後始末で、山に積もった灰が雨のたびに土石流となって川を埋め、下流の水害は数十年続いたと記録されています。噴火の被害は「2週間」では終わりませんでした。

宝永噴火の降灰の厚さの記録値を示した地図
宝永噴火の降灰の記録値。偏西風に乗って灰は東へ流れ、江戸や房総まで届いた(出典:内閣府報告書の記載値/地図:国土地理院)

この噴火にはもうひとつ重要な前段があります。噴火の49日前、南海トラフで宝永地震(推定マグニチュード8.6級)が起きていたことです。巨大地震が地下のマグマだまりを刺激した可能性が指摘されており、南海トラフ地震と富士山噴火をセットで考える研究が現在も続けられています。南海トラフの仕組みは南海トラフとは何かで解説しています。

次の噴火では何が想定されているのか?

2021年3月、静岡・山梨・神奈川3県などで作る富士山火山防災対策協議会がハザードマップを17年ぶりに改定しました。過去5,600年分の噴火実績を調べ直した結果、想定される溶岩の量は最大で約13億立方メートル(864年の貞観噴火クラス)に引き上げられ、溶岩流の到達範囲は従来想定より大きく広がりました。新たに相模原市や小田原市など神奈川県の7市町にも溶岩流が達する可能性が示されています。

ただし、ここで数字の読み方に注意が要ります。溶岩流は歩くより遅いことも多く、避難する時間はあります。改定マップで神奈川県境への到達は33時間後と試算されています。本当に早くて怖いのは、火口近くの火砕流や噴石、そして広域では火山灰です。灰は電力・交通・水道・物流を面的に止めます。宝永クラスの噴火が現代に起きた場合、首都圏の都市機能への影響が最大の課題とされているのは、このためです。

登山者にとって直接関わるのは噴火警戒レベルです。富士山は常時観測火山で、レベル3以上で入山規制がかかります。火山と登山規制の全国の仕組みは火山で登れなくなる百名山にまとめています。

なぜ富士山は噴火し続けるのか?

富士山が「たまたま」噴火する山なのではありません。あの場所は、フィリピン海プレートが本州の下に沈み込み、さらに太平洋プレートも絡む、3枚のプレートがせめぎ合う特異点です。沈み込むプレートが地下で水を放出し、その水がマントルを溶かしてマグマを作る——この製造ラインが動き続ける限り、富士山への燃料供給は止まりません(マグマは海の水から生まれる)。

富士山の内部が複数の古い火山の重なりでできていることを示す図解
富士山の内部構造。先小御岳・小御岳・古富士・新富士と、数十万年かけて火山が積み重なった「4階建て」の山(イメージ図解)

実際、いま見えている富士山は「4代目」です。山体の内部には先小御岳・小御岳・古富士という古い火山が埋まっており、新富士火山がその上に噴出物を重ねて現在の美しい円錐を作りました。つまりあの左右対称の姿は、噴火の繰り返しそのものが彫り上げた造形です。美しさの製造工程と災害の製造工程が同じという、火山の本質がよく出ています。詳しい成り立ちは富士山の地質をどうぞ。

宝永噴火の現場は、いま登って見られる

宝永噴火の火口は、富士登山のルートから実際に歩いて見に行けます。富士宮口五合目や御殿場ルートから宝永山(2,693m)方面へ回り込むと、山腹にぽっかり開いた直径1km級の宝永火口を火口縁から見下ろせます。整った円錐の山体に、南東側だけ大きくえぐれた傷跡。318年前の噴火が「どこで・どの規模で」起きたのかを、体で測れる場所です。

火口の周囲は今も植生がまばらな砂礫の斜面で、一歩ごとに足が沈む火山灰の登りが続きます。300年経ってもまだ植物が戻りきらないという事実そのものが、噴火のダメージの大きさを語っています。夏山シーズンなら難所のないコースなので、「防災を足で学ぶ」場所として個人的に一番おすすめできる火山地形です。

山頂で見た「静かな火山」

夏に富士山へ登ると、この山が火山であることを忘れそうになります。しかし山頂の火口の縁に立つと、直径約780m・深さ約240mの巨大なすり鉢が口を開けていて、観光の山の顔が一変します。私が登った時に印象的だったのは、火口の内壁の赤黒い焼けた岩肌でした。300年静かにしているだけで、構造は現役の火山そのものです。

富士山山頂の火口
富士山山頂の火口。静かに見えても、地下のマグマ製造ラインは今も稼働中です

現代社会にとっての急所は、灰が「電気で動くもの全般」と相性が最悪なことです。数cmの降灰でも、鉄道は運行を止め、道路はスリップと視界不良で麻痺し、送電設備は絶縁不良を起こし、浄水場やエアコン・精密機器のフィルターは目詰まりします。政府の中央防災会議も、富士山の大規模噴火時には首都圏の交通・電力・物流への影響が長期化するとの想定を公表しています。江戸時代の宝永噴火では「灰かき」が最大の労働でしたが、現代版の宝永噴火では「インフラの目詰まり」が最大の敵になります。

備えについては、住んでいる地域の降灰想定を一度見ておくだけでも価値があります。ハザードマップは静岡・山梨・神奈川各県のサイトで公開されており、富士山から100km圏の方なら「灰が数cm積もった週」を想像しておくのが、もっとも現実的な防災です。

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噴火したら危険な日本の火山——山体の大きさ・噴火規模・回数で比較 https://chikyu-yama.online/japan-volcano-ranking/ https://chikyu-yama.online/japan-volcano-ranking/#respond Tue, 14 Jul 2026 22:46:55 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=1579 日本には111の活火山があります。山体の大きさ・過去の噴火の規模・噴火の頻度という3つの部門で、公的データに基づく火山ランキングを作りました。1位は3部門とも意外な顔ぶれです。

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日本には111の活火山があり、この記事ではその「実力」を、山体の大きさ・過去の噴火の規模・噴火の頻度という3つの部門でランキングにしました。意外なことに、国(気象庁)による公式の火山ランキングは存在しません。2003年に活動度でA〜Cのランク分けが作られましたが、現在は使われていません。そこでこの記事では、公的なデータベースの数値だけを使い、出典を明示して3部門の順位表を作ります。

先に3部門の1位だけ言うと、大きさは富士山、噴火の規模は阿蘇、噴火の頻度は——これも富士山です。「優美な富士山は実は日本一の巨体で、日本一よく噴火してきた」。このギャップが、日本の火山を読む面白さの入口になります。

富士山山頂付近から見たご来光と雲海
富士山山頂直下のご来光。この黒い斜面の下に、日本一の体積548km³が沈んでいます。大きさ部門・頻度部門の二冠王です。

第1部門:日本一大きい火山はどれか?

結論:現存する山体の体積では富士山が約548km³で1位です。日本火山学会がまとめた「日本の第四紀火山カタログ」(1999)の数値で統一して順位を付けると、次のようになります。よく紹介される「富士山=約400km³」は気象庁の値で、資料により幅がありますが、どの資料でも富士山の1位は揺るぎません。

順位火山体積標高
1富士山約548km³3,776m
2八ヶ岳約369km³2,899m(赤岳)
3榛名山※約180km³1,449m
4鳥海山約105km³2,236m
5赤城山約100km³1,828m
6御嶽山約79km³3,067m
7伯耆大山約78km³1,729m
8吾妻山約77km³2,035m
9浅間山約75km³2,568m
10苗場山約65km³2,145m

出典は第四紀火山カタログ委員会編『日本の第四紀火山カタログ』(日本火山学会、1999)。※榛名山の値は山体だけでなく火砕流・火山灰などの噴出物込みのため、少し割り引いて見る必要があります。また伊豆大島や三宅島などの島の火山は海底からの体積で計上されるため(三宅島は約519km³)、陸の山とは別枠にしました。

なお御嶽山(6位)は、標高では富士山に次ぐ日本第2位の火山(3,067m)です。「もっと上では」と感じた方は正しい感覚で、高さと体積は別の勝負ということになります。見どころは2位の八ヶ岳です。標高では富士山に900m近く負けていますが、南北21kmに連なる山体の総量は約369km³で堂々の2位。しかも八ヶ岳は数十万年分の侵食で深く削られてこの値です。山頂が広大な湿原になっている苗場山が10位に入っているのも、「火山らしい形」と「火山の実力」が別物であることを教えてくれます。ちなみに当ブログでよく扱う立山(弥陀ヶ原火山)は約10km³。富士山1つで立山55個分という計算になり、富士山の異常さが際立ちます。

日本の火山ランキング3部門の上位火山の位置図
3部門の上位火山の分布。巨大噴火の給源(赤)が北海道と南九州に偏り、本州中部には「大きい山体」(青)が並ぶ——この分布自体が日本列島の地下構造を映しています(出典:国土地理院の地図を加工)。

第2部門:日本最大の噴火はどれか?

結論:過去約12万年で最大の噴火は、約9万年前の阿蘇4噴火です。産総研の大規模噴火データベースによると、噴出量は930〜1,860km³。現在の阿蘇の山々はこの噴火で山体が丸ごと吹き飛んだ「あと」に育った子世代で、東西18km・南北25kmのカルデラの縁が、失われた親の体格を今も示しています。

順位噴火(給源)年代噴出量(見かけ体積)
1阿蘇4(阿蘇カルデラ)約9万年前930〜1,860km³
2姶良・入戸(姶良カルデラ)約3万年前880〜1,000km³
3支笏(支笏カルデラ)約4.6万年前350〜390km³
4阿多(阿多カルデラ)約11万年前300km³超
5洞爺(洞爺カルデラ)約11万年前230〜310km³
6鬼界アカホヤ(鬼界カルデラ)約7,300年前170km³超

出典は産総研の大規模噴火データベース(姶良・支笏・阿多・洞爺・鬼界)と、阿蘇4については産総研の研究者による2020年の再評価論文(Takarada & Hoshizumi, Frontiers in Earth Science)。6位の鬼界アカホヤ噴火は、過去1万年あまり(完新世)に限れば世界最大の噴火で、鹿児島沖の海底カルデラから出た火山灰は東北地方まで届いています。縄文時代の南九州の文化を壊滅させた噴火として知られます。なお、こうした噴火を指す「破局噴火」という言葉は、実は学術用語ではなく小説発祥の造語です。研究の世界では「カルデラ形成噴火」「大規模火砕噴火」と呼びます。

日本の噴火の噴出量比較(対数スケール):御嶽山2014から阿蘇4まで
噴出量の比較。目盛りが10倍刻みであることに注意。御嶽山2014年と阿蘇4の間には約100万倍の開きがあります。

このグラフで伝えたいのは、江戸の町に灰を降らせた富士山の宝永噴火(約1.7km³)でさえ、カルデラ噴火の数百分の1という規模感です。そして左端の御嶽山2014年噴火は約0.001km³。阿蘇4の100万分の1です。それでも死者・行方不明者63名という戦後最悪の火山災害になりました。噴火の「規模」と「人的被害」はまったく別の問題である——このグラフはそれを冷厳に示しています。

御嶽山山頂直下、2014年噴火の痕跡が残る火口周辺
初秋の御嶽山山頂直下で撮った、噴火の痕跡が残る一帯。私がここに立ったとき、グラフ上では「ほぼゼロ」に見える噴火が現地に残した爪痕の生々しさに、数字の読み方を考え直させられました。

第3部門:最も頻繁に噴火してきた火山はどれか?

結論:過去1万年の噴火イベント数では、富士山が162回で1位です。産総研の「1万年噴火イベントデータ集」の収録イベントを火山ごとに集計しました(公表済みのランキング表があるわけではなく、当ブログでデータ集を基に数えた値です)。

順位火山過去1万年の噴火イベント数単純平均の間隔
1富士山162約60年
2阿蘇山(中岳)161約60年
3伊豆大島118約85年
4浅間山113約90年
5霧島山100約100年
6桜島69(連続噴火を1件と数えた値)

この表には正直な注意書きが2つ必要です。第一に、イベント数は「地質と古文書の記録に残った回数」なので、調査が進んでいる火山ほど多く数えられます。第二に、何年も続く連続噴火は1件と数えられます。桜島は1955年以降ほぼ毎年爆発的噴火を繰り返しており(多い年は年数百回)、「実際に噴火した回数」なら桜島が別次元の1位です。現在も噴火警戒レベル3(入山規制)が続く、日本で最も現役の火山です。

それを踏まえても、富士山の162回は強烈です。平均すれば約60年に1回。ところが最後の噴火(宝永)から約320年が経っています。過去1万年の履歴の中で、現在の静けさはかなり異例の部類です。「平均60年」は「60年ごとに噴く」という意味ではありませんが、少なくとも「富士山は噴火しない山」という感覚が歴史の実態と逆であることは、この数字が示す通りです。詳しくは富士山の地質で解説しています。

登山者はこのランキングをどう使うか

3つの表を眺めると、面白い事実に気づきます。大きさTOP10のうち、御嶽山・伯耆大山・浅間山・富士山など、半分以上が普通に登山道のある人気の山です。日本の登山文化は、世界的に見れば「活火山の上でレジャーをしている」文化です。私自身、御嶽山・焼岳・安達太良山・富士山と、気づけばランキング常連の火山ばかり登ってきました。火山の山は総じて眺めが良く、地形が劇的で、温泉があります。危険だから登らないのではなく、危険の性質を知って登る。そのために気象庁の噴火警戒レベルを出発前に確認し、火口周辺ではヘルメットを持つ。ランキングはその「知る」の入口として使ってください。

安達太良山の荒涼とした火山地形
安達太良山の稜線から望む沼ノ平火口方面。植生が戻らない荒涼とした景観は、この山が「現役」であることの何よりの証拠です。

ランキングの先へ——個々の火山を読む

この記事は数値の一覧ですが、一つひとつの火山には固有の物語があります。規模100万分の1の噴火が最悪の火山災害になった御嶽山、北アルプス唯一の活火山焼岳、体積7位ながら崩壊が止まらない伯耆大山、月面のような沼ノ平を抱く安達太良山。そもそもなぜ日本にこれほど火山が多いのかは、日本の山はなぜここにある?で解説しています。噴火が残した溶岩が六角形の石柱に変わる柱状節理も、噴火の「作品」のひとつです。「山の地質」カテゴリで、山の成り立ちを地球規模で読み解いています。

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