安達太良山 登山記録——ロープウェイで登る火山、「ほんとの空」と月面の沼ノ平

登山記録

険しい岩稜の山が続いたので、今回はぐっと親しみやすい山です。福島県の安達太良山(あだたらやま)。標高1,700mの活火山で、日本百名山のひとつですが、なんといってもロープウェイで八合目まで一気に上がれるのが魅力です。子ども連れの家族でも、無理なく山頂をめざせます。

それでいて、見どころは本格的です。詩人・高村光太郎が『智恵子抄』で詠んだ「ほんとの空」、乳首のような独特の山頂、そして月面のクレーターのような沼ノ平の爆裂火口。手軽さと火山らしいダイナミックさが同居した、お得な山です。

安達太良山 奥岳登山口の標識
奥岳登山口。ここからロープウェイに乗れば、八合目まで一気に上がれます。背後になだらかな安達太良の山体が見えています。

ロープウェイで八合目・薬師岳へ

奥岳登山口からロープウェイに乗ると、わずか数分で標高1,350mの薬師岳まで運んでくれます。下から歩けば数時間かかる道のりを、座っているだけで上がってしまうのですから、文明の力はありがたいものです。登山というより空中散歩から始まる山、というのは子ども連れには心強いスタートです。

薬師岳の展望台には、「この上の空がほんとの空です」と刻まれた智恵子抄の記念碑が立っています。智恵子が「東京には空がない」と嘆き、ふるさと安達太良の空を「ほんとの空」と呼んだ——その一節で知られる場所です。実際に見上げると、確かに広く澄んだ空が広がっていました。詩の一節を知っていると、ただの青空が少し特別に見えてくるから不思議です。

乳首山と呼ばれる山頂へ

薬師岳から山頂までは、なだらかな稜線を1時間20分ほど。森林限界を超えると、低い灌木と岩礫の開けた道になり、火山らしい景色に変わっていきます。風が抜けて気持ちのいい稜線歩きです。

安達太良山の山頂は、遠くから見ると小さな突起がぽこんと飛び出した独特の形をしていて、「乳首山(ちちくびやま)」という親しみのある別名で呼ばれています。この突起は、火山活動でマグマが盛り上がって固まった溶岩ドームです。山頂直下には岩場もありますが、慎重に行けば子どもでも越えられる程度で、最後にひと登りすると1,700mの頂に立てます。

安達太良山の山頂標識と乳首山の溶岩ドーム
安達太良山の山頂。背後にぽこんと盛り上がっているのが「乳首山」と呼ばれる溶岩ドームです。火山活動でマグマが盛り上がって固まった証拠です。

月面のような沼ノ平の爆裂火口

安達太良山の最大の見どころは、山頂の先に広がる沼ノ平の爆裂火口です。稜線をたどって火口の縁に立つと、それまでの緑の景色が一変します。赤褐色の大地に白い岩盤がむき出しになった、直径約1.2km・深さ約150mの巨大なくぼ地。草木はほとんどなく、本当に月面のクレーターを覗き込んでいるようです。

安達太良山の火山地形が広がる稜線の展望
山頂周辺に広がる火山地形。緑の灌木の先に、赤茶けた火山の地肌と火口壁が見えています。同じ山とは思えないほど景色が切り替わります。

この穏やかでない景色には、痛ましい歴史があります。1900年(明治33年)7月、この沼ノ平で水蒸気爆発が起こり、火口内にあった硫黄の採掘所が壊滅して、72名もの命が失われました。今ものどかな観光地に見えて、安達太良山は気象庁が常時観測を続ける活火山です。火口周辺には立ち入りが規制されている区域もあり、ロープウェイで気軽に登れる山が、れっきとした生きている火山であることを思い出させてくれます。

なぜ巨大な爆裂火口ができたのか

沼ノ平のような爆裂火口は、水蒸気爆発によってつくられます。火山の地下にはマグマの熱があり、その熱で地下水が熱せられます。閉じ込められた水が一気に水蒸気へと膨張すると、その圧力で山体の一部を吹き飛ばしてしまう——これが水蒸気爆発です。マグマそのものが噴き出すというより、温められた水が爆発の主役になります。

水蒸気爆発で爆裂火口ができる仕組みの図解
水蒸気爆発で爆裂火口ができる仕組み。マグマの熱で地下水が熱せられ、水蒸気となって膨張し、山体を吹き飛ばして巨大なくぼ地を残します。

大量の岩石を吹き飛ばした跡には、すり鉢状の巨大なくぼ地が残ります。これが沼ノ平の正体です。同じ水蒸気爆発は、御嶽山でも起きており、火山の身近でありながら侮れない一面を物語っています。安達太良山を歩くと、ロープウェイの手軽さと、足元に広がる火口の迫力という両極端を、半日で味わうことができます。親しみやすい山の懐に、地球のエネルギーがしっかり潜んでいる——そんなことを実感できる火山です。


安達太良山はロープウェイを使えば子ども連れでも楽しめる、入門にうってつけの火山です。火山の成り立ちに興味がわいたら、御嶽山の地質焼岳の地質の記事もどうぞ。ほかの登山記録は「登山記録カテゴリ」にまとめています。

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