温泉はなぜ湧くのか——火山の温泉と、火山がない関西で湯が出る理由

山の地質

登山をしてると自然と温泉にも詳しくなりますよね。下山後の温泉は最高ですが、「そもそもなぜ地面から熱いお湯が出てくるのか」を考えたことはありますか。答えはひとつではなく、温泉には大きく3つの温まり方があります。火山の熱、地下の深さ、そしてプレートの水。とくに3つ目は、「火山が1つもない関西でなぜ有馬温泉が湧くのか」という謎を解くカギで、当ブログで書いてきたプレートの話とがっちり繋がります。この記事では、温泉の仕組みを一次資料でわかりやすく解説します。

そもそも「温泉」とは——25℃という意外な低さ

まず定義から。日本の温泉法では、温泉とは「湧き出したときに25℃以上」か、または「指定された19種類の成分のどれか1つが規定量以上含まれている」もの、と決められています。25℃は正直ぬるいです。つまり冷たく感じる水でも、特定の成分が入っていれば立派な温泉。逆に言えば「温泉=熱い」というイメージは半分しか合っていません。この記事では、その中でも「なぜ熱くなるのか」に絞って話を進めます。

温泉の3つの温まり方

火山性・深層地下水型・プレート由来の3タイプの温泉のでき方を示す地下断面図解
温泉の3つの温まり方。同じ「熱いお湯」でも、熱の出どころはまったく違います。

①火山の熱で温める(火山性温泉)

いちばんイメージどおりのタイプです。地下数kmにあるマグマだまり(1000℃以上)の熱で地下水が温められ、湧き出します。草津・箱根・登別といった名湯がこれで、火山ガスが溶け込むため個性的な泉質になります。草津温泉は火山ガスの硫黄成分などが溶けてpH2前後の強酸性——五寸釘が10日ほどで溶けてしまう酸っぱさで、これは草津白根山という活火山が真後ろにいる証拠です(火山の実力については火山ランキングの記事もどうぞ)。火山性温泉は、いわば火山の体温を借りたお湯です。

樽前山の溶岩ドームと噴気。外輪山の東山山頂(1,022m)から
樽前山の溶岩ドーム(外輪山の東山山頂から)。岩の隙間からいまも噴気が上がっています。「火山の熱で温める」の実物がこれで、山麓の支笏湖畔にも温泉が湧いています。

②地下の深さで温める(深層地下水型)

火山のない平野や都市部にも温泉はあります。その正体は、単純に「深く掘れば地面は温かい」という地球の性質です。地面の温度は深さ100mごとに約2〜3℃ずつ上がります。地表が20℃なら、1,000m掘れば50℃前後、3,000m掘れば100℃超。だから東京の真ん中でも、深いボーリングで温泉を掘り当てられます。マグマは関係なく、地球そのものが持つ熱(地熱)を深さで拾っているタイプです。都市の「天然温泉」の多くはこれです。

③プレートの水で温める(有馬型・深部流体)

そして3つ目が、近年とくに注目されているタイプです。ここで有馬温泉の謎が解けます。関西には活火山が1つもないのに、有馬温泉は90℃を超える熱い湯と濃い塩分・炭酸を噴き出しています。火山がないのになぜ——答えは沈み込むプレートでした。

神戸大学などの研究によると、近畿の地下には比較的若くて温かいフィリピン海プレートが沈み込んでいて、有馬の真下でこのプレートから高温の水が放出されています。別記事の活火山の話で「近畿に火山がないのはプレートが浅くマグマが生まれないから」と触れましたが、じつは同じプレートが、火山の代わりに温泉を生んでいたのです。産総研もこの「深部流体」を有馬型と呼び、2024年には専門の特別展を開いたほどのホットな研究テーマ。関西で温泉に入るとき、その塩気は数千万年前に海だったプレートが運んできた、と思うと少し味わいが変わります。

登山者のための温泉——高いところ・すごいところ

山と温泉は切っても切れません。登山者目線でぜひ知っておきたい温泉を挙げておきます。

  • 日本一高い温泉・みくりが池温泉(立山・標高2,410m)——地獄谷から引いた白濁の硫黄泉を、無加水・無加温の源泉かけ流しで楽しめます。まさに火山性温泉の王様
  • 湧出量日本一・草津温泉——自然に湧き出る量が日本一。火山の実力がそのまま湯量に出ています
  • 登別・地獄谷——約1万年前の爆裂火口の跡が、毎分3,000リットルもの源泉を供給する温泉の心臓部

立山のみくりが池温泉が硫黄で白く濁るのは、真下の地獄谷が活発な火山活動を続けているからです。立山の地質記事で書いたとおり、立山は今も生きている火山地形。あの一杯は、地球の体温そのものに浸かる体験なのです。

温泉のよくある質問

日本には温泉がどれくらいある?

環境省の最新統計(令和6年度)では、温泉地が約2,800か所、源泉の数は約27,900本、湧出量は毎分約248万リットル。世界有数の温泉大国です。これは日本がプレートがせめぎ合う場所にあることの、うれしい副産物です。

泉質や色が温泉ごとに違うのはなぜ?

お湯が地下でどんな成分と出会ったかで決まります。火山ガスの硫黄成分が溶ければ白濁の硫黄泉や強酸性の酸性泉に、地層の塩分を溶かせば塩化物泉(食塩泉)に、鉄分が多ければ茶褐色に。同じ「温泉」でも、通ってきた地下の道のりが色と匂いに刻まれているわけです。

火山のない土地の温泉は「本物」じゃない?

立派な本物です。深層地下水型も有馬型も、地球の熱やプレートの営みで温まった正真正銘の温泉。むしろ「火山がないのに湧く温泉」の方が、地下の仕組みとしては面白いくらいです。温泉に優劣はなく、あるのは温まり方の個性だけです。

まとめ——下山後の一杯は「地球の熱」の味

温泉が湧く理由は、火山のマグマ・地下の深さ・プレートの水の3通り。名湯の個性は「どの熱で、どんな地下を通ってきたか」の記録です。次に温泉に浸かるとき、白濁なら火山、無色透明で深い井戸なら地熱、関西の塩気ならプレート——と出どころを想像してみてください。同じ湯船が、地球の内部とつながった特等席に見えてくるはずです。とくに山の温泉は、たった今登ってきた山の地下と直結しています。下山後の一杯を、これまで以上に味わってもらえたら嬉しいです。

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