環太平洋造山帯とは何か——太平洋を囲む4万kmの「火の輪」を実データの地図で見る

山の地質

環太平洋造山帯(かんたいへいようぞうざんたい)とは、太平洋をぐるりと囲むように連なる、全長約4万kmの山脈と火山の帯のことです。英語では「Ring of Fire(火の輪)」。世界の地震の約9割がこの帯で起き、日本列島もその一部です。「輪って本当?」と思った方のために、まず世界中の火山の実データを地図に打ってみました。疑ってすみませんでした、と言いたくなる見事な輪が出ます。

実データで見る「火の輪」

世界の活火山1196点を太平洋中心の世界地図に打点した図。太平洋を囲む輪状の分布が浮かび上がる
世界の火山1,196点(スミソニアン協会の火山データベースに登録された、過去約1万年に活動した火山)をすべて打点。アンデス→北米→アリューシャン→日本→フィリピン→ニュージーランドと、太平洋を囲む輪がくっきり現れます。

数字で言うと、この輪には世界の火山のおよそ6〜8割(集計方法により57〜80%)が集中し、世界の地震の約90%、特に大きな地震に限れば約81%がここで起きています(米国地質調査所USGSによる)。ちなみに「火の輪」はかっこいい通称であって正式な学術用語ではなく、実際の形も完全な輪ではなく馬蹄形です。それでも、地球上でこれほど劇的な偏りは他にありません。

なぜ「輪」になるのか——海のプレートが沈み込む縁だから

種明かしはプレートの配置です。太平洋の海底を作る海のプレートは、周囲の大陸や島々の下へ、縁のほぼ全周で沈み込んでいます。プレートと山の記事で書いたとおり、沈み込んだプレートが深さ100km前後に達すると水がしぼり出されてマグマが生まれ、真上に火山の列ができる。つまり「太平洋の縁」=「沈み込みの最前線」=「火山と地震の帯」という三段論法です。輪に見えるのは、太平洋がほぼ全周を沈み込み帯に囲まれた、地球で唯一の大洋だからです。

沈み込むプレートが深さ100kmに達した真上に火山列ができる仕組みの断面図解
輪の断面図。この断面が太平洋の縁に沿って4万km分ぐるりと続いている、と考えてください。

日本列島は、この輪の北西部を受け持つ「現役バリバリの区間」です。政府の防災白書にも「我が国は環太平洋火山帯の一部に位置し、多数の火山を有する火山国である」と明記されています。桜島や阿蘇から、チリのアンデス、アラスカ、カムチャツカまで——日本の火山の「同僚」は、太平洋の対岸で今日も噴煙を上げています。

羊蹄山の山頂から見下ろす麓の田園と洞爺湖
「火の輪」の現場のひとつ、北海道・羊蹄山の山頂から。雲の下に見える湖は洞爺湖——約11万年前の巨大噴火でできたカルデラの湖です。活火山の頂からカルデラを見下ろす、輪の内側ならではの風景でした。

もうひとつの大山脈帯——ヒマラヤに火山がない理由

世界にはもう1本、大きな山脈の帯があります。アルプスからヒマラヤへ続く「アルプス・ヒマラヤ造山帯」です。ただし性格がまるで違います。先ほどの地図をもう一度見てください——世界最高峰の山脈であるヒマラヤ周辺に、火山の赤い点がほぼありません

理由は山の作り方の違いです。環太平洋は「海のプレートが大陸の下に沈み込む」タイプで、沈み込みがマグマを生むため火山だらけになります。一方ヒマラヤは「大陸と大陸が正面衝突する」タイプ。ヒマラヤの記事で書いたとおり、大陸同士は密度が同じで沈み込めないため、行き場を失った地面がひたすら高く盛り上がります。マグマを作る仕組みが弱いので、世界一高い山脈なのに活火山はほぼゼロ。「高さのヒマラヤ、火力の環太平洋」という役割分担です。

実は教科書から消えつつある言葉です

ここまで解説しておいて言いにくいのですが、「環太平洋造山帯」という用語は、最新の中学教科書の本文からは姿を消しつつあります。プレートの境界で地震や火山活動が起きる地帯を、今の教科書はより広く「変動帯」と呼ぶ方向に変わりました(造山帯という言葉は、プレート境界のうち山脈を作る場所に限られるためです)。高校地理で習った「新期造山帯・古期造山帯」(古期の例としてウラル山脈やアパラチア山脈が挙げられる、あの分類)も、学術側からは見直しの提案が出ています。

とはいえ、言葉が変わっても当然現象は変わりません。太平洋を囲む火山と地震の帯は今日も現役です。むしろ「自分が習った用語が更新されていく」のを眺められるのは、地球科学が生きている証拠だと思って楽しむのが正解だと思います。

環太平洋造山帯のよくある質問

「火の輪」と名付けたのは誰?

記録に残る最初の使用例は1859年、ドイツの地理学者カール・リッターとされています(スミソニアン協会の解説による)。面白いのは、これがプレートテクトニクス理論の100年以上前だということ。「太平洋の周りに火山が並んでいる」ことは昔から見えていたのに、その理由が説明できたのは1960年代以降でした。名前が先で、種明かしが1世紀後に来た言葉です。

輪の外に火山はないの?

あります。地図の輪の外にも点があるのはそのためで、代表はハワイ(地下からマグマが湧き続けるホットスポット)、アイスランド(プレートが生まれて広がる場所)、東アフリカ(大陸が裂けつつある場所)など。火山の作り方は沈み込みだけではない、という良い教材です。

日本で「輪」を体感できる場所は?

活火山の山頂ならどこでも「輪の上」ですが、おすすめは火山の頂から別の火山地形を見渡せる場所です。羊蹄山から洞爺湖、高岳(阿蘇)からカルデラ、富士山からお鉢。自分の足元と視界の先が同じ仕組みで並んでいると実感できたら、それがもう環太平洋造山帯の体感です。

まとめ——日本の山は「輪」の一区間

環太平洋造山帯は、太平洋をぐるりと囲む全長約4万kmの火山と地震の帯で、正体は「海のプレートが沈み込む最前線」の連なりです。世界の火山の6〜8割、地震の約9割がここに集中し、日本列島はその現役区間。ヒマラヤ(衝突型・火山なし)と見比べると、山の二大製法の違いまで一望できます。日本で山に登るということは、知らず知らずこの巨大な輪の上を歩いているということ——次の山行で足元の由来を思い出してもらえたら嬉しいです。

山の成り立ちをもっと知りたい方は、「山の地質」カテゴリの記事一覧もどうぞ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました