屈斜路カルデラと硫黄山(アトサヌプリ)——日本最大のカルデラと、鉄道を生んだ硫黄の山

山の地質

北海道の道東にある屈斜路(くっしゃろ)カルデラは、東西26km・南北20kmという日本最大のカルデラです。カルデラの記事で「日本最大は阿蘇ではなく屈斜路」と書きましたが、その現地がここ。しかもこの巨大なくぼ地の中では、硫黄山(アトサヌプリ)が今も黄色い噴気を上げ、その硫黄がかつて道東に鉄道を敷く原動力になりました。この記事では、日本最大のカルデラと、そこに刻まれた火山と開拓の物語を、地図と写真で解説します。

日本最大のカルデラのスケール

まず地図で全体像を見てください。屈斜路カルデラは約12万年前をはじめ複数回の巨大噴火で、山ごと陥没してできた巨大なくぼ地です。その大きさは東西26km。中にたまった水が日本最大のカルデラ湖・屈斜路湖で、湖に浮かぶ中島は日本最大の「湖の中の島」です。カルデラのスケールが桁違いなので、その中に湖も温泉も火山も町も、まるごと収まっています。

屈斜路カルデラ・アトサヌプリ・屈斜路湖・摩周カルデラの位置図
屈斜路カルデラ(赤い縁)と、その東に隣接する小さな摩周カルデラ(紫)。屈斜路の中に硫黄山・屈斜路湖・川湯温泉がすべて収まっています(出典:国土地理院の地図を加工)。

カルデラがなぜこんな巨大なくぼ地になるのか、その仕組みはこの図のとおりです。地下のマグマだまりが巨大噴火で空になり、天井を支えきれなくなった地面がまるごと落ち込む——それが屈斜路の規模で起きた跡が、今の風景です。

カルデラができる3段階の断面図解
カルデラのでき方。屈斜路ではこれが東西26kmという日本最大の規模で起きました。

面白いのは、屈斜路カルデラのすぐ東に、もうひとつ小さなカルデラが寄り添っていることです。それが約7,000年前の噴火でできた摩周カルデラ——透明度で有名な摩周湖の正体です。大小2つのカルデラが並ぶこの一帯は、日本でも指折りの「カルデラ密集地帯」なのです。

砂を掘れば温泉——カルデラが生きている証拠

屈斜路湖の湖畔には「砂湯」という名所があります。その名のとおり、湖岸の砂浜を少し掘るだけで温泉が湧いてくる場所です。訪れたとき、看板に「湖畔から温泉がでます」と書いてあるのを見て、いいなと思いました。カルデラが「大昔に終わった穴」ではなく、地下でまだ火山の熱を保っている「生きているくぼ地」であることが、足元の砂の温かさで実感できます。

屈斜路湖の砂湯の看板。カルデラ屈斜路湖 砂湯と書かれている
屈斜路湖畔の砂湯。看板にも「カルデラ」と明記されています。霧に煙る湖面と、足元から湧く温泉——カルデラの中に立っていることを体で感じられる場所です。

硫黄山(アトサヌプリ)——鉄道を敷いた「裸の山」

硫黄山(アトサヌプリ)阿寒摩周国立公園の標識
硫黄山(アトサヌプリ)の入口。阿寒摩周国立公園の一部です

カルデラの中で今いちばん活発なのが、硫黄山ことアトサヌプリ(標高512m)です。アイヌ語で「裸の山」を意味するこの名のとおり、火山ガスと硫黄で草木が生えず、山肌のあちこちから噴気が噴き出し、黄色い硫黄の結晶がこびりついています。カルデラができた後にその中で新しく育った、現役の活火山(後カルデラ火山)です。

アトサヌプリの噴気孔に積もった黄色い硫黄の結晶とHot Springの標識
噴気孔のまわりに積もった黄色い硫黄の結晶。7月上旬に訪れたとき、噴気孔のすぐ横まで近づけました

この硫黄山には、地学だけでなく北海道開拓の歴史が刻まれています。明治時代、ここは一大硫黄鉱山でした。噴き出す硫黄をマッチや火薬の原料として採掘し、大量に運び出すために——硫黄を運ぶ鉄道が敷かれたのです。安田財閥が明治20年(1887)から運営したこの鉱山鉄道は、のちに旅客も運ぶようになり、現在のJR釧網本線へと発展しました。標茶や釧路といった道東の町の発展は、この硫黄山と深く結びついています。火山が噴き出す硫黄が、鉄道と町を生んだ——地面の恵みが人の暮らしを作った、わかりやすい実例です。

硫黄山の火山ガスは、すぐ近くの川湯温泉も生んでいます。川湯温泉は硫黄山直結の強酸性泉(pH2前後)で、レモンより酸っぱいお湯。ここでも「火山があるから温泉が湧く」という火山の恵みを体感できます。

噴気孔に近づきすぎて、正直ヒヤッとした話

ここからは体験談です。実際に訪れて驚いたのは、噴気孔にあまりに近づけてしまうことでした。遊歩道の先、黄色い硫黄が積もった噴気孔のすぐ横まで行けてしまい、正直「ここまで来て大丈夫なのか、本当に許可された観光地なのか」と不安になりました。噴出口に顔を近づけると、余裕で火傷しそうな熱いガスが吹き上がっています。硫黄のにおいで喉の奥がヒリつき、目にもしみます。柵はありますが、その柵のすぐ内側から高温のガスが出ている場所もありました。

アトサヌプリの噴気孔から白い火山ガスが噴き出す様子
泥がぐつぐつと煮え立つ噴気孔。この距離まで近づける観光地はそう多くありません

大人でも思わず身構える距離感なので、小さなお子さん連れの場合はとくに注意してください。ガスは無色で見えにくいうえ、風向き次第で急に流れてきます。硫黄山の噴気は水蒸気だけでなく亜硫酸ガスや硫化水素を含み、高温です。好奇心で噴気孔に手や顔を近づけるのは本当に危険です。地面も熱を持っている場所があるので、遊歩道と柵の内側から外れないのが鉄則です。地球が生きていることを、これほど至近距離で体感できる場所は貴重ですが、その分だけ相手は本物の活火山だということを忘れないほうがよいと思います。

草木の生えないアトサヌプリの硫黄原と一面の噴気
草木ひとつ生えない硫黄原。あたり一面から噴気が上がり、地面は黄色い硫黄で染まっています

屈斜路カルデラのよくある質問

阿蘇より大きいの?

寸法では屈斜路(東西26km・南北20km、気象庁による)が阿蘇(南北25km・東西17km)をやや上回り、日本最大とされます。有名なのは阿蘇ですが、大きさの日本一は北海道の屈斜路です。どちらも桁違いの巨大噴火の跡という点では兄弟のような存在です。

硫黄山は登れる?危なくない?

ふもとの遊歩道から噴気地帯の間近まで見学できます。ただし「間近」の距離感が想像以上で、噴気孔のすぐ横まで近づけてしまうため、火傷しそうな高温のガスや硫黄のにおいをまともに浴びる場面があります(上の体験談のとおりです)。硫黄山は常時観測されている活火山で、ガスの濃い場所には立ち入り規制があり、火山活動によっては規制が変わります。遊歩道と柵の内側を必ず守り、とくに子ども連れは目を離さないこと。訪れる前に気象庁の噴火警戒レベルと現地の指示を確認してください。

摩周湖と屈斜路湖はどう違う?

どちらもカルデラ湖ですが、屈斜路湖は日本最大で温泉も湧く「にぎやかな湖」、摩周湖は流れ込む川も流れ出す川もほとんどない、透明度で名高い「静かな湖」です。屈斜路のほうが古く大きく、摩周のほうが新しく小さいカルデラ、という関係です。

まとめ——日本最大のくぼ地に、火山と人の歴史が詰まっている

屈斜路カルデラは、東西26kmという日本最大のカルデラ。その中に日本最大のカルデラ湖と湖中島があり、砂を掘れば温泉が湧き、硫黄山が今も噴気を上げ、その硫黄が道東に鉄道を敷きました。ひとつのくぼ地に、巨大噴火の地学・生きた火山・開拓の歴史が全部詰まっている——これほど密度の濃い場所はそうありません。道東を旅する機会があれば、屈斜路湖の砂浜で足元を掘ってみてください。日本最大のカルデラが、まだ温かいことに気づくはずです。

雌阿寒岳の麓には、微生物が今まさに鉱石を作り続けるオンネトー湯の滝という珍しい場所もあります。道東の火山めぐりにあわせてどうぞ。

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