氷河地形とは何か——カール・U字谷・モレーンの見分け方を図解と日本の実例で解説

山の地質

氷河地形とは、氷河が地表を削ったり、削り取った土砂を運んで積もらせたりしてできた地形のことです。日本アルプスの険しく美しい山容の多くは、いまから約2万年前の最終氷期に、山を覆っていた氷河が刻んだ姿です。氷そのものはとうに消えても、削られた地形だけが証拠として残っています。

氷河地形を読むポイントは3つあります。ひとつ目は、山をスプーンでえぐったようなカール(圏谷)。ふたつ目は、氷が谷を削って断面をU字にしたU字谷。三つ目は、氷が運んだ土砂が積もったモレーン(氷堆石)です。この3つを知っていると、日本アルプスの稜線の見え方が変わります。そして意外なことに、日本にはいまも動いている氷河が残っています。

氷河地形とは何か — 削る氷、運ぶ氷

氷河は「ゆっくり流れる氷の川」です。山の斜面のくぼみに雪が積もり、自分の重みで押し固められて氷になり、重力でじわじわと斜面を下りはじめます。この動く氷が、岩盤を削る巨大なやすりの役割を果たします。氷河がつくる地形は、大きく「削る地形」と「積もらせる地形」に分かれます。

カール(圏谷):山をえぐった半円のくぼみ

カール(日本語では圏谷〈けんこく〉)は、山の斜面をスプーンでえぐったように、半球状・馬蹄形にへこんだ地形です。山頂近くのくぼみにたまった氷河が、後ろの壁と底を削りながら下方へ動くことで、すり鉢状のくぼ地ができあがります。日本で「カール」と呼ばれる圏谷は、この最終氷期の氷河が残した傑作です。国土地理院も、氷河や周氷河作用による地形の代表例としてカールを挙げています。

U字谷とモレーン:削って、運んで、積もらせる

氷河が谷を流れ下ると、谷底と両側の壁を同時に削り、断面がアルファベットのU字のような谷になります。川がつくるV字谷が鋭く切れ込むのに対し、氷河のU字谷は底が広く平らなのが特徴です。そして氷河が削り取った岩や砂は、氷とともに運ばれ、氷河の末端や側面に積もってモレーン(氷堆石)という堤防のような高まりをつくります。モレーンが谷をせき止めると、そこに氷河湖ができることもあります。カールの底に水がたまった小さな池は、この仕組みの名残です。

さらに、複数のカールが山体を別々の方向から削っていくと、カールとカールの間に取り残された尾根が刃物のように鋭くなります。これがアレート(鋭い岩稜)で、複数のカールに囲まれて残った尖った峰がホーンです。槍ヶ岳のとがった穂先や、剱岳の荒々しい岩稜は、この氷河彫刻の産物として理解できます。

氷河地形の形成(カール・U字谷・モレーン・アレート)の模式図
氷河がつくる地形の模式図。山頂近くのカール(圏谷)から氷河が流れ下り、U字谷を削り、末端にモレーンを堆積する。カールに削り残された鋭い稜線がアレート。

なぜ日本アルプスに氷河地形があるのか?

答えは、最終氷期に日本アルプスの標高の高い場所が氷河に覆われていたからです。氷期のピークは約2万年前で、このころ地球全体が寒冷化し、日本アルプスの高山帯にも氷河が発達しました。氷河は約1万年前の温暖化で大部分が消えましたが、削られた地形はそのまま残りました。

氷河地形が残っているのは、南アルプスの赤石岳・荒川岳・仙丈ヶ岳、中央アルプスの木曽駒ヶ岳や三ノ沢岳・南駒ヶ岳、北アルプスの槍・穂高連峰や立山・剱連峰、薬師岳、双六岳、野口五郎岳、白馬岳など、標高2,500mを超える山域に集中しています。逆にいえば、これらの山が険しく登りごたえがあるのは、氷河がわざわざ削り込んだ結果でもあります。登山者としては、地球に整地されたおかげで急登を強いられているわけで、感謝すべきか恨むべきか判断に迷うところです。

日本最大級のカール — 涸沢と千畳敷

日本のカールの代表格が、北アルプス・穂高連峰の涸沢カール(長野県松本市)です。奥穂高岳・北穂高岳・前穂高岳に三方を囲まれた、国内最大規模といわれる圏谷で、秋には斜面がナナカマドの紅葉で真っ赤に染まります。実際に涸沢に立つと、背後の岩壁がぐるりと半円形に立ち上がり、自分がすり鉢の底にいることがはっきりわかります。ここが氷で満たされていた時代を想像すると、足元の広々とした平らな底がU字谷の名残なのだと腑に落ちます。テント場の地面がやけに平坦なのも、氷河が丁寧に均していった跡だと思うと、少し見方が変わります。

もうひとつの名所が、中央アルプスの千畳敷カールです。ロープウェイで標高2,600mまで一気に上がれるため、登山をしない人でもカールの中に立てる希少な場所です。カール壁を見上げると、氷河が削った半円の輪郭がそのまま残っていて、「これを氷が削ったのか」と足を止める人が多いのもうなずけます。氷河地形を体感する入門地としては、これ以上ない立地です。

涸沢カールと穂高連峰の地形図
涸沢カール周辺の地形図。北穂高岳・奥穂高岳・前穂高岳に三方を囲まれた半円形のくぼ地が涸沢カール(出典:国土地理院)。

日本にも氷河は残っているのか?

残っています。しかも、つい最近までそのことは知られていませんでした。長らく「日本に氷河はなく、あるのは万年雪(多年性雪渓)だけ」というのが常識でしたが、2012年、立山の御前沢雪渓と、剱岳の三ノ窓雪渓・小窓雪渓の3つが、氷が実際に流動していることを確認され、日本雪氷学会に現存する氷河として認められました。日本で初めて「現役の氷河」が確認された瞬間です。

その後も調査は続き、2018年には鹿島槍ヶ岳のカクネ里雪渓、立山の内蔵助雪渓、剱岳の池ノ谷雪渓が、2019年には唐松岳の唐松沢雪渓が氷河と認められました。カクネ里雪渓については、現地調査をまとめた論文が学会誌『地理学評論』に掲載されて確定しています。日本の現存氷河がいずれも飛騨山脈(北アルプス北部)に集中しているのは、日本海からの豪雪が大量の積雪をもたらし、標高の高い北向きの谷に氷が維持されやすいためです。氷河は遠い過去の話だと思って登っていた足元に、いまも動いている氷があるというのは、なかなか背筋の伸びる事実です。

遠見尾根から見たカクネ里氷河と鹿島槍ヶ岳
遠見尾根から望むカクネ里氷河(鹿島槍ヶ岳の東面)。谷を白く埋める雪の下に、いまも動く氷が残っています。2018年に氷河と認められました。

氷河地形を実際に見るには

もっとも手軽なのは、ロープウェイで入れる千畳敷カールです。本格的に氷河地形の只中を歩くなら、涸沢カールや、氷河が削った圏谷とモレーン湖が点在する立山周辺が向いています。剱岳の荒々しい岩稜は、複数のカールに削り残されたアレートそのものです。谷を刻む氷河の力という点では、上越国境で東面だけが極端に険しくなった谷川岳も、最終氷期の氷河侵食が地形を決めた好例です。

スケールをさらに広げれば、ヒマラヤは氷河地形の教科書です。エベレスト街道で対面する巨大なゴジュンバ氷河は、いまなお現役で谷を削り続けており、日本のカールがつくられた時代の光景がそのまま現在進行形で見られます。そもそもヒマラヤという山脈自体が、大陸どうしの衝突で押し上げられたうえに氷河で刻まれた、隆起と侵食の合作です。日本アルプスのカールを見てからヒマラヤに行くと、規模は違っても同じ原理が働いていることに気づきます。


氷河地形は、いまはもう存在しない氷が残した「地球の下書き線」のようなものです。カール・U字谷・モレーンという視点を持って稜線を眺めると、険しさの理由が一段深く読めてきます。個別の山の成り立ちは日本の山はなぜここにある?の総覧記事や、「山の地質カテゴリ」にまとめています。

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