富士山 アーカイブ - 地球を感じる山登り 山の成り立ちを地質学から読み解く登山ブログ Wed, 30 Sep 2026 22:45:03 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=7.1.3 https://chikyu-yama.online/wp-content/uploads/2026/04/favicon_tozan-150x150.png 富士山 アーカイブ - 地球を感じる山登り 32 32 富士山が噴火したら何が起きるのか——318年前の宝永噴火とハザードマップの地質学 https://chikyu-yama.online/fuji-eruption-hazard/ https://chikyu-yama.online/fuji-eruption-hazard/#respond Tue, 29 Sep 2026 01:09:27 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=2075 富士山最後の噴火・宝永噴火(1707年)では、江戸にも火山灰が積もり、噴火は2週間続きました。次に噴火したら何が起きるのか。降灰の記録値、2021年に改定されたハザードマップ、そして「なぜ富士山は必ずまた噴火するのか」を地質から解説します。

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富士山は、約5,600年の間に少なくとも180回以上噴火してきた、まぎれもない活火山です。最後の噴火は318年前の宝永噴火(1707年)で、江戸の市中にも火山灰が積もりました。「次の噴火」は起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題であり、そのための想定が2021年改定の富士山ハザードマップにまとめられています。

この記事のポイントは3つあります。①宝永噴火の実測記録から、噴火の影響範囲が具体的に分かること。②2021年のハザードマップ改定で、溶岩流の想定が神奈川県まで広がったこと。③富士山が噴火を続ける理由は、3枚のプレートが出会う場所に立っているという地質構造そのものにあること。

318年前に実際に起きたこと——宝永噴火の記録

1707年12月16日、富士山の南東斜面が裂け、黒い噴煙が立ちのぼりました。内閣府の災害教訓報告書によると、噴火はその日のうちに約100km離れた江戸に灰を降らせ、昼でも暗くなったと記録されています。噴火は断続的に約2週間続きました。

降った灰の量は場所によって桁違いです。火口から約10kmの小山町(静岡県)で約300cm、約50kmの伊勢原(神奈川県)で約30cm、約100kmの江戸(現在の文京区)でも約2cm、房総半島の市原まで飛んで約8cm。3mの火山灰は家を押し潰す量で、実際に火口周辺の村は埋没しました。さらに深刻だったのは後始末で、山に積もった灰が雨のたびに土石流となって川を埋め、下流の水害は数十年続いたと記録されています。噴火の被害は「2週間」では終わりませんでした。

宝永噴火の降灰の厚さの記録値を示した地図
宝永噴火の降灰の記録値。偏西風に乗って灰は東へ流れ、江戸や房総まで届いた(出典:内閣府報告書の記載値/地図:国土地理院)

この噴火にはもうひとつ重要な前段があります。噴火の49日前、南海トラフで宝永地震(推定マグニチュード8.6級)が起きていたことです。巨大地震が地下のマグマだまりを刺激した可能性が指摘されており、南海トラフ地震と富士山噴火をセットで考える研究が現在も続けられています。南海トラフの仕組みは南海トラフとは何かで解説しています。

次の噴火では何が想定されているのか?

2021年3月、静岡・山梨・神奈川3県などで作る富士山火山防災対策協議会がハザードマップを17年ぶりに改定しました。過去5,600年分の噴火実績を調べ直した結果、想定される溶岩の量は最大で約13億立方メートル(864年の貞観噴火クラス)に引き上げられ、溶岩流の到達範囲は従来想定より大きく広がりました。新たに相模原市や小田原市など神奈川県の7市町にも溶岩流が達する可能性が示されています。

ただし、ここで数字の読み方に注意が要ります。溶岩流は歩くより遅いことも多く、避難する時間はあります。改定マップで神奈川県境への到達は33時間後と試算されています。本当に早くて怖いのは、火口近くの火砕流や噴石、そして広域では火山灰です。灰は電力・交通・水道・物流を面的に止めます。宝永クラスの噴火が現代に起きた場合、首都圏の都市機能への影響が最大の課題とされているのは、このためです。

登山者にとって直接関わるのは噴火警戒レベルです。富士山は常時観測火山で、レベル3以上で入山規制がかかります。火山と登山規制の全国の仕組みは火山で登れなくなる百名山にまとめています。

なぜ富士山は噴火し続けるのか?

富士山が「たまたま」噴火する山なのではありません。あの場所は、フィリピン海プレートが本州の下に沈み込み、さらに太平洋プレートも絡む、3枚のプレートがせめぎ合う特異点です。沈み込むプレートが地下で水を放出し、その水がマントルを溶かしてマグマを作る——この製造ラインが動き続ける限り、富士山への燃料供給は止まりません(マグマは海の水から生まれる)。

富士山の内部が複数の古い火山の重なりでできていることを示す図解
富士山の内部構造。先小御岳・小御岳・古富士・新富士と、数十万年かけて火山が積み重なった「4階建て」の山(イメージ図解)

実際、いま見えている富士山は「4代目」です。山体の内部には先小御岳・小御岳・古富士という古い火山が埋まっており、新富士火山がその上に噴出物を重ねて現在の美しい円錐を作りました。つまりあの左右対称の姿は、噴火の繰り返しそのものが彫り上げた造形です。美しさの製造工程と災害の製造工程が同じという、火山の本質がよく出ています。詳しい成り立ちは富士山の地質をどうぞ。

宝永噴火の現場は、いま登って見られる

宝永噴火の火口は、富士登山のルートから実際に歩いて見に行けます。富士宮口五合目や御殿場ルートから宝永山(2,693m)方面へ回り込むと、山腹にぽっかり開いた直径1km級の宝永火口を火口縁から見下ろせます。整った円錐の山体に、南東側だけ大きくえぐれた傷跡。318年前の噴火が「どこで・どの規模で」起きたのかを、体で測れる場所です。

火口の周囲は今も植生がまばらな砂礫の斜面で、一歩ごとに足が沈む火山灰の登りが続きます。300年経ってもまだ植物が戻りきらないという事実そのものが、噴火のダメージの大きさを語っています。夏山シーズンなら難所のないコースなので、「防災を足で学ぶ」場所として個人的に一番おすすめできる火山地形です。

山頂で見た「静かな火山」

夏に富士山へ登ると、この山が火山であることを忘れそうになります。しかし山頂の火口の縁に立つと、直径約780m・深さ約240mの巨大なすり鉢が口を開けていて、観光の山の顔が一変します。私が登った時に印象的だったのは、火口の内壁の赤黒い焼けた岩肌でした。300年静かにしているだけで、構造は現役の火山そのものです。

富士山山頂の火口
富士山山頂の火口。静かに見えても、地下のマグマ製造ラインは今も稼働中です

現代社会にとっての急所は、灰が「電気で動くもの全般」と相性が最悪なことです。数cmの降灰でも、鉄道は運行を止め、道路はスリップと視界不良で麻痺し、送電設備は絶縁不良を起こし、浄水場やエアコン・精密機器のフィルターは目詰まりします。政府の中央防災会議も、富士山の大規模噴火時には首都圏の交通・電力・物流への影響が長期化するとの想定を公表しています。江戸時代の宝永噴火では「灰かき」が最大の労働でしたが、現代版の宝永噴火では「インフラの目詰まり」が最大の敵になります。

備えについては、住んでいる地域の降灰想定を一度見ておくだけでも価値があります。ハザードマップは静岡・山梨・神奈川各県のサイトで公開されており、富士山から100km圏の方なら「灰が数cm積もった週」を想像しておくのが、もっとも現実的な防災です。

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標高5,000mでは酸素が半分になる——富士山で息が切れる理由と高山病の正体 https://chikyu-yama.online/altitude-oxygen-pressure/ https://chikyu-yama.online/altitude-oxygen-pressure/#respond Tue, 25 Aug 2026 02:20:12 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=2051 標高5,000mの空気に含まれる酸素は海面の約半分、富士山頂でも約3分の2です。酸素の濃度は変わらないのに、なぜ息が切れるのか。気圧と酸素の関係、高山病の仕組み、体が慣れる過程を、標高5,357mまで歩いた実体験で解説します。

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高い山で息が切れるのは、気圧が下がることで、ひと呼吸で肺に入ってくる酸素の分子の数が減るからです。標高3,776mの富士山頂で海面の約3分の2、標高5,000mでは約半分になります。体力の問題ではなく、吸っている空気そのものが「薄い」という物理の問題です。

この記事のポイントは3つあります。①空気中の酸素の「割合」は山頂でも21%のまま変わらないこと。②減っているのは気圧、つまり空気の分子の数であること。③体は数日かけてこの環境に適応でき、それが高山病対策のすべての基本になっていること。標高5,357mのゴーキョ・リまで歩いたときの体感も添えて解説します。

酸素の「濃度」は減らない?——減るのは分子の数

よく「山の上は酸素が薄い」と言いますが、正確に言うと、空気に占める酸素の割合は地上でも標高8,000mでも約21%で一定です。変わるのは気圧です。標高が上がるほど、その場所より上に載っている空気の重さが減るため、気圧が下がります。気圧が下がるということは、同じ体積の空気の中にいる分子の数そのものが少ないということです。

つまり山頂で吸うひと呼吸は、割合としては地上と同じ「21%が酸素」の空気なのに、入っている分子の総数が少ないぶん、手に入る酸素の絶対量が減ります。ジュースの濃さは同じなのに、コップが小さくなっていくイメージです。息が切れるのは当然で、体は減った分を呼吸の回数と心拍数で補おうとします。

標高と気圧(酸素量)の関係を示すグラフ。富士山64%、ゴーキョ・リ51%、エベレスト31%
標高と空気(酸素)の量の関係。国際標準大気(ISO 2533)から計算。富士山頂で海面の約64%、エベレスト山頂では約31%しかない

国際標準大気(世界共通の大気モデル)で計算すると、気圧は富士山頂で海面の約64%、標高5,357mのゴーキョ・リで約51%、エベレスト山頂で約31%です。エベレスト山頂のひと呼吸は、地上の3分の1回分の呼吸でしかありません。無酸素登頂という言葉の重みが、この数字だけで伝わってきます。

標高5,000mのひと呼吸は、地上の半分だった

数字の話だけでは実感が湧かないので、体感の話をします。ネパール・クンブ地方をゴーキョまで歩いたときのことです。

最初の関門は標高3,440mのナムチェバザールでした。村の中の石段を登るだけで息が上がります。荷物を置いて手ぶらで宿の階段を上がっても、踊り場で一度止まる。地上なら鼻歌の距離です。「体力が落ちたのか」と一瞬疑いますが、犯人は自分ではなく気圧でした。ここですでに空気は地上の約3分の2です。

標高4,750mのゴーキョから、5,357mのゴーキョ・リへの登りが本番でした。標高差約600m。日本の感覚なら2時間弱の登りです。実際には、20歩歩いては立ち止まって呼吸を整える、の繰り返しになりました。ペースを上げようとしても、肺と心臓が即座に拒否権を発動します。地上の51%の空気では、「頑張る」という選択肢自体が没収されるのだと知りました。

ゴーキョ・リ山頂のタルチョと8000m級の山々
標高5,357mのゴーキョ・リ山頂。ここの空気は海面の約半分。タルチョ(祈祷旗)の向こうに8,000m級が並ぶ

高山病はなぜ起きるのか?

高山病は、体が酸素不足の環境に適応しきれていないときに出る症状の総称です。日本登山医学会などの資料によると、代表的な症状は頭痛・吐き気・食欲不振・めまい・睡眠障害で、一般に標高2,500mを超えるあたりから起こりやすくなるとされています。つまり富士山は、日本で唯一、誰でも高山病の「本番環境」に入れる山です。実際、富士山では発症は珍しくありません。

重要なのは、高山病のリスクを決める最大の要因が「どれだけ高いか」ではなく「どれだけ速く高度を上げたか」であることです。体には適応の仕組みが備わっていますが、それには時間がかかります。夜行バスで五合目に着いてそのまま山頂を目指す弾丸登山が危険とされるのは、この適応の時間を完全にスキップしてしまうからです。

体は慣れる——高所順応という仕組み

低酸素環境に数日間さらされると、体は呼吸を深くし、やがて赤血球を増やして、少ない酸素を効率よく運ぶ体制に切り替わっていきます。これが高所順応です。ヒマラヤのトレッキング行程が異様にゆっくり組まれているのは、観光のためではなく、この生理的な工事期間を確保するためです。

私の行程でも、テンボチェ(約3,860m)やその先の村で泊まりを重ね、1日の高度上昇を数百mに抑えながら登りました。面白いのは帰り道です。行きにあれほど苦しかったナムチェの石段が、下山時にはただの階段に戻っていました。標高3,440mが「空気の濃い場所」に感じられるようになっていたわけです。人体の適応力は、数字で見る以上に頼もしいものでした。テンボチェ周辺の様子はテンボチェ僧院と標高3,800mの大地に書いています。

ちなみに、登山の世界で言われる「高く登って低く眠る」は、この順応を効率よく進めるための古典的なコツです。日中に高い場所まで足を延ばして体に刺激を入れ、夜は低い場所に戻って眠る。ゴーキョ・リのような展望の丘は、絶景ポイントであると同時に、順応のための実用的な装置でもあります。

気圧が下がると、ご飯までまずくなる

気圧の低下が変えるのは呼吸だけではありません。水の沸点も下がります。水は気圧が低いほど低い温度で沸騰するため、富士山頂ではおよそ87〜88℃、標高5,000mでは約83℃で沸騰してしまいます。ぐらぐら煮えたぎっているのに、温度は足りていない。ヒマラヤのロッジで食べた米がどこか芯のある炊き上がりだったのは、調理人の腕ではなく物理法則の仕業です。圧力鍋という道具は、この問題を人工的に気圧を上げて解決する発明で、高所の食堂ではまさに必需品になっています。

ほかにも、未開封のポテトチップスの袋が標高とともにパンパンに膨らんでいく現象は、登山者にはおなじみです。袋の中に閉じ込められた地上の気圧が、外の薄い空気に対して勝っている状態で、いわば手のひらサイズの気圧計です。体の内側でも同じことが起きていて、耳が詰まった感じになるのも、気圧差を体が調整している音です。

登山者が使える実践ポイント

この記事の内容を富士登山に置き換えると、そのまま実践的な対策になります。五合目(約2,300m)で1〜2時間過ごしてから登り始める。山小屋で一泊して高度を上げる時間を体に与える。水分をよくとり、ペースを「会話できる速さ」に抑える。どれも根拠は同じで、体の適応速度に行程を合わせるということです。逆に、頭痛や吐き気が出たときに唯一確実に効く対処は「高度を下げること」です。症状をこらえて登り続けるのは、原因をそのままにして結果と戦う行為なので、勝ち目がありません。

気圧は標高とともに確実に下がりますが、気温も同じように下がっていきます。山の上がなぜ涼しいのか、そしてヒマラヤの高峰になぜ雪が積もり氷河が生まれるのかは、ゴーキョ・リから見た氷河の世界とエベレストの山頂は海底だったで解説しています。8,849mという標高そのものが、インド大陸の衝突が5,000万年かけて作った数字です。

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活火山とは何か——日本に111もある理由と、地図に浮かぶ「並び方の法則」 https://chikyu-yama.online/katsukazan-basics/ https://chikyu-yama.online/katsukazan-basics/#respond Wed, 22 Jul 2026 05:13:01 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=1658 活火山とは「概ね過去1万年以内に噴火した火山と、今も噴気活動がある火山」のこと。日本には111あります。なぜ1万年なのか、なぜ近畿・四国にはゼロなのか——分布図に浮かぶ法則まで、気象庁の一次資料でわかりやすく解説します。

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活火山とは、「概ね過去1万年以内に噴火した火山」と「現在活発な噴気活動のある火山」のことです(気象庁の定義)。日本にはこれが111あります。ところで、昔の理科で習った「休火山」「死火山」という言葉を覚えていませんか。実はこの分類、今は公式に使われていません。この記事では、活火山の定義が「1万年」になった理由、111の分布図に浮かび上がる並び方の法則、そして「なぜ近畿と四国には活火山が1つもないのか」まで、気象庁と産総研の一次資料で解説します。

「休火山・死火山」はなぜ消えたのか

かつては「今噴いている山=活火山、休んでいる山=休火山、もう噴かない山=死火山」という3分類があり、富士山は長らく「休火山」と呼ばれていました。この分類が消えた理由は、年代測定の技術が進んで火山の寿命は人間の歴史よりはるかに長いと分かったからです。火山は数千年〜数万年単位で活動するので、数百年噴いていないことは「ほんのつかの間の眠り」にすぎません。歴史の記録だけで生死を判定するのは無意味だった、というわけです。

それを痛感させたのが1979年の御嶽山です。有史以来の噴火記録がなく「死火山」扱いだった山が、突然噴火しました。こうした経験を経て、気象庁(火山噴火予知連絡会)は2003年に現在の「概ね過去1万年以内」という基準へ定義を改めます。1万年噴いていなくても、次に噴く可能性を否定できないのが火山なのです。

御嶽山の山頂部に残る噴火の痕跡
御嶽山。「死火山」と呼ばれていた山は1979年に突然目を覚まし、活火山の定義そのものを書き換えるきっかけになりました。

111の分布図——並び方に法則がある

111の活火山を地図に打つと、バラバラではなくくっきりした帯になって並びます。北海道から東北の背骨を通る帯、富士山から伊豆諸島・小笠原へ一直線に南下する帯、九州から南西諸島へ続く帯。そして一目で分かるのが、近畿・四国の完全な空白です。

日本の活火山111の全分布図。帯状に並び近畿・四国には存在しない
日本の活火山111の分布(位置は気象庁カタログに基づく。出典:国土地理院の地図を加工)。列島に沿った帯と、近畿・四国の空白に注目してください。

この並び方の正体は、地下に沈み込むプレートです。海のプレートが日本列島の下に沈み込み、深さ100〜150kmに達したところでプレートから水がしぼり出され、マグマが生まれます。だから火山は「プレートがその深さに達した場所の真上」に、海溝と平行な列を作る。この火山列の最前線を火山フロントと呼びます。

沈み込むプレートが深さ100kmに達した真上に火山列ができる仕組みの断面図解
火山が帯状に並ぶ仕組み。海溝と火山列の間には「火山なし地帯」ができます。

では近畿・四国はなぜ空白なのか。この地域に沈み込むフィリピン海プレートは若くて温かく、浅い角度で沈み込んでいるため、マグマが生まれる深さまで十分に達していないから——というのが現在の説明です。関西に火山がないのに有馬温泉が異常に熱いのは、このプレートからしぼり出された熱水が直接上がってくるためだと近年の研究で分かってきました。火山の空白地帯にも、地下ではちゃんとドラマが進行しています。

活火山は「増えて」いる——77から111へ

活火山の数は、実は何度も変わってきました。

年数基準
1975年77噴火の記録がある火山など
1991〜96年83→86「過去およそ2000年以内」に拡大
2003年108「概ね過去1万年以内」に改定
2011年・2017年110→111調査の進展で追加選定

もちろん火山が新しく生えてきたわけではなく、増えたのは「人間の知識」の方です。噴火の記録は文書が残っているかどうかという人間側の事情に左右されますが、年代測定の進歩で、記録のない火山からも新しい噴火の証拠が次々見つかりました。基準を科学に寄せるたびに数が増えてきた、という歴史です。ちなみに2024年からは、新設された国の火山調査研究推進本部がこの111を正式に引き継いでいます。

数字で見る日本の活火山

最高峰富士山(3,776m)。2位は御嶽山(3,067m)
最北茂世路岳(択捉島)。カタログは北方領土の11火山を含む
最南日光海山(海底火山、山頂は水深392m)
海底火山山体がまるごと海面下の火山が9〜10ある
世界の中では世界の活火山は約1,350〜1,500。日本はその約7〜8%(政府資料では「約1割」)
24時間監視111のうち51火山を常時観測(今年3月に中之島が追加され50→51に)

国土面積は世界の0.25%しかないのに、活火山は約1割。あらためて日本は火山の国です。しかも「最南の活火山」が海の底というのは意外に知られていません。2021年に大噴火して軽石を関東の海岸まで届けた福徳岡ノ場も、小笠原の海底火山でした。ここまで読んで巨大な噴火の実力が気になった方は、日本の火山ランキングの記事でどうぞ。

いま「活動中」の火山はどれくらい?

活火山111といっても、大半は静かです。この記事を書いている時点で噴火警戒レベル3(入山規制)は桜島の1火山、レベル2(火口周辺規制)は雌阿寒岳・十勝岳・岩手山・阿蘇山・新燃岳・薩摩硫黄島・諏訪之瀬島の7火山。つまり登山に影響が出ているのは111のうち1割弱で、残りは「活火山であることに留意」しつつ普通に登れます。レベルは動きます——今年に入ってからも十勝岳と阿蘇山が1→2に上がり、口永良部島は2に上がって9日後に1へ下がりました。火山の山に登る前に気象庁の発表を確認する習慣だけは持っておきたいところです。規制の仕組みと百名山への影響は、近日公開予定の入山規制の記事で詳しくまとめています。

活火山のよくある質問

富士山は活火山?

正真正銘の活火山です。最後の噴火(1707年の宝永噴火)から約300年静かですが、火山の時間感覚では「つかの間の眠り」。しかも過去の噴火回数で見ると日本屈指の「よく噴く山」で、現在も24時間の常時観測対象です。

活火山でない山なら安心?

噴火の心配はほぼ不要ですが、「活火山でない=火山でない」ではありません。たとえば北アルプスの多くの山は火山ではありませんし、逆に立山のように活火山(弥陀ヶ原)を抱えた山域もあります。山がどちらのタイプかを知っておくと、山の見え方が変わります。

巨大なカルデラも活火山?

阿蘇・十和田・屈斜路など、多くのカルデラが活火山として数えられています。カルデラの記事で書いたとおり、カルデラは日本最大級の噴火の跡地。「凹んでいるから終わった火山」ではなく、中岳(阿蘇)のように現役で噴煙を上げているものもあります。

まとめ——111という数字は「知識の現在地」

活火山とは「概ね過去1万年以内に噴火した、または今も噴気を上げる火山」で、日本には111。並び方は地下のプレートが決めていて、近畿・四国の空白まで含めて理屈どおりです。そして77→111という数の変遷が教えてくれるのは、この数字が「火山の数」ではなく人間の知識の現在地だということ。次に基準や調査が進めば、112になる日も来るかもしれません。山の上で噴気や火口に出会ったら、1万年スケールの「生きている山」に登っているのだと思い出してみてください。

視野を日本の外へ広げると、この火山の列は太平洋をぐるりと一周しています。環太平洋造山帯——太平洋を囲む4万kmの「火の輪」で全体像を実データの地図で見られます。

山の成り立ちをもっと知りたい方は、「山の地質」カテゴリの記事一覧もどうぞ。

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噴火したら危険な日本の火山——山体の大きさ・噴火規模・回数で比較 https://chikyu-yama.online/japan-volcano-ranking/ https://chikyu-yama.online/japan-volcano-ranking/#respond Tue, 14 Jul 2026 22:46:55 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=1579 日本には111の活火山があります。山体の大きさ・過去の噴火の規模・噴火の頻度という3つの部門で、公的データに基づく火山ランキングを作りました。1位は3部門とも意外な顔ぶれです。

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日本には111の活火山があり、この記事ではその「実力」を、山体の大きさ・過去の噴火の規模・噴火の頻度という3つの部門でランキングにしました。意外なことに、国(気象庁)による公式の火山ランキングは存在しません。2003年に活動度でA〜Cのランク分けが作られましたが、現在は使われていません。そこでこの記事では、公的なデータベースの数値だけを使い、出典を明示して3部門の順位表を作ります。

先に3部門の1位だけ言うと、大きさは富士山、噴火の規模は阿蘇、噴火の頻度は——これも富士山です。「優美な富士山は実は日本一の巨体で、日本一よく噴火してきた」。このギャップが、日本の火山を読む面白さの入口になります。

富士山山頂付近から見たご来光と雲海
富士山山頂直下のご来光。この黒い斜面の下に、日本一の体積548km³が沈んでいます。大きさ部門・頻度部門の二冠王です。

第1部門:日本一大きい火山はどれか?

結論:現存する山体の体積では富士山が約548km³で1位です。日本火山学会がまとめた「日本の第四紀火山カタログ」(1999)の数値で統一して順位を付けると、次のようになります。よく紹介される「富士山=約400km³」は気象庁の値で、資料により幅がありますが、どの資料でも富士山の1位は揺るぎません。

順位火山体積標高
1富士山約548km³3,776m
2八ヶ岳約369km³2,899m(赤岳)
3榛名山※約180km³1,449m
4鳥海山約105km³2,236m
5赤城山約100km³1,828m
6御嶽山約79km³3,067m
7伯耆大山約78km³1,729m
8吾妻山約77km³2,035m
9浅間山約75km³2,568m
10苗場山約65km³2,145m

出典は第四紀火山カタログ委員会編『日本の第四紀火山カタログ』(日本火山学会、1999)。※榛名山の値は山体だけでなく火砕流・火山灰などの噴出物込みのため、少し割り引いて見る必要があります。また伊豆大島や三宅島などの島の火山は海底からの体積で計上されるため(三宅島は約519km³)、陸の山とは別枠にしました。

なお御嶽山(6位)は、標高では富士山に次ぐ日本第2位の火山(3,067m)です。「もっと上では」と感じた方は正しい感覚で、高さと体積は別の勝負ということになります。見どころは2位の八ヶ岳です。標高では富士山に900m近く負けていますが、南北21kmに連なる山体の総量は約369km³で堂々の2位。しかも八ヶ岳は数十万年分の侵食で深く削られてこの値です。山頂が広大な湿原になっている苗場山が10位に入っているのも、「火山らしい形」と「火山の実力」が別物であることを教えてくれます。ちなみに当ブログでよく扱う立山(弥陀ヶ原火山)は約10km³。富士山1つで立山55個分という計算になり、富士山の異常さが際立ちます。

日本の火山ランキング3部門の上位火山の位置図
3部門の上位火山の分布。巨大噴火の給源(赤)が北海道と南九州に偏り、本州中部には「大きい山体」(青)が並ぶ——この分布自体が日本列島の地下構造を映しています(出典:国土地理院の地図を加工)。

第2部門:日本最大の噴火はどれか?

結論:過去約12万年で最大の噴火は、約9万年前の阿蘇4噴火です。産総研の大規模噴火データベースによると、噴出量は930〜1,860km³。現在の阿蘇の山々はこの噴火で山体が丸ごと吹き飛んだ「あと」に育った子世代で、東西18km・南北25kmのカルデラの縁が、失われた親の体格を今も示しています。

順位噴火(給源)年代噴出量(見かけ体積)
1阿蘇4(阿蘇カルデラ)約9万年前930〜1,860km³
2姶良・入戸(姶良カルデラ)約3万年前880〜1,000km³
3支笏(支笏カルデラ)約4.6万年前350〜390km³
4阿多(阿多カルデラ)約11万年前300km³超
5洞爺(洞爺カルデラ)約11万年前230〜310km³
6鬼界アカホヤ(鬼界カルデラ)約7,300年前170km³超

出典は産総研の大規模噴火データベース(姶良・支笏・阿多・洞爺・鬼界)と、阿蘇4については産総研の研究者による2020年の再評価論文(Takarada & Hoshizumi, Frontiers in Earth Science)。6位の鬼界アカホヤ噴火は、過去1万年あまり(完新世)に限れば世界最大の噴火で、鹿児島沖の海底カルデラから出た火山灰は東北地方まで届いています。縄文時代の南九州の文化を壊滅させた噴火として知られます。なお、こうした噴火を指す「破局噴火」という言葉は、実は学術用語ではなく小説発祥の造語です。研究の世界では「カルデラ形成噴火」「大規模火砕噴火」と呼びます。

日本の噴火の噴出量比較(対数スケール):御嶽山2014から阿蘇4まで
噴出量の比較。目盛りが10倍刻みであることに注意。御嶽山2014年と阿蘇4の間には約100万倍の開きがあります。

このグラフで伝えたいのは、江戸の町に灰を降らせた富士山の宝永噴火(約1.7km³)でさえ、カルデラ噴火の数百分の1という規模感です。そして左端の御嶽山2014年噴火は約0.001km³。阿蘇4の100万分の1です。それでも死者・行方不明者63名という戦後最悪の火山災害になりました。噴火の「規模」と「人的被害」はまったく別の問題である——このグラフはそれを冷厳に示しています。

御嶽山山頂直下、2014年噴火の痕跡が残る火口周辺
初秋の御嶽山山頂直下で撮った、噴火の痕跡が残る一帯。私がここに立ったとき、グラフ上では「ほぼゼロ」に見える噴火が現地に残した爪痕の生々しさに、数字の読み方を考え直させられました。

第3部門:最も頻繁に噴火してきた火山はどれか?

結論:過去1万年の噴火イベント数では、富士山が162回で1位です。産総研の「1万年噴火イベントデータ集」の収録イベントを火山ごとに集計しました(公表済みのランキング表があるわけではなく、当ブログでデータ集を基に数えた値です)。

順位火山過去1万年の噴火イベント数単純平均の間隔
1富士山162約60年
2阿蘇山(中岳)161約60年
3伊豆大島118約85年
4浅間山113約90年
5霧島山100約100年
6桜島69(連続噴火を1件と数えた値)

この表には正直な注意書きが2つ必要です。第一に、イベント数は「地質と古文書の記録に残った回数」なので、調査が進んでいる火山ほど多く数えられます。第二に、何年も続く連続噴火は1件と数えられます。桜島は1955年以降ほぼ毎年爆発的噴火を繰り返しており(多い年は年数百回)、「実際に噴火した回数」なら桜島が別次元の1位です。現在も噴火警戒レベル3(入山規制)が続く、日本で最も現役の火山です。

それを踏まえても、富士山の162回は強烈です。平均すれば約60年に1回。ところが最後の噴火(宝永)から約320年が経っています。過去1万年の履歴の中で、現在の静けさはかなり異例の部類です。「平均60年」は「60年ごとに噴く」という意味ではありませんが、少なくとも「富士山は噴火しない山」という感覚が歴史の実態と逆であることは、この数字が示す通りです。詳しくは富士山の地質で解説しています。

登山者はこのランキングをどう使うか

3つの表を眺めると、面白い事実に気づきます。大きさTOP10のうち、御嶽山・伯耆大山・浅間山・富士山など、半分以上が普通に登山道のある人気の山です。日本の登山文化は、世界的に見れば「活火山の上でレジャーをしている」文化です。私自身、御嶽山・焼岳・安達太良山・富士山と、気づけばランキング常連の火山ばかり登ってきました。火山の山は総じて眺めが良く、地形が劇的で、温泉があります。危険だから登らないのではなく、危険の性質を知って登る。そのために気象庁の噴火警戒レベルを出発前に確認し、火口周辺ではヘルメットを持つ。ランキングはその「知る」の入口として使ってください。

安達太良山の荒涼とした火山地形
安達太良山の稜線から望む沼ノ平火口方面。植生が戻らない荒涼とした景観は、この山が「現役」であることの何よりの証拠です。

ランキングの先へ——個々の火山を読む

この記事は数値の一覧ですが、一つひとつの火山には固有の物語があります。規模100万分の1の噴火が最悪の火山災害になった御嶽山、北アルプス唯一の活火山焼岳、体積7位ながら崩壊が止まらない伯耆大山、月面のような沼ノ平を抱く安達太良山。そもそもなぜ日本にこれほど火山が多いのかは、日本の山はなぜここにある?で解説しています。噴火が残した溶岩が六角形の石柱に変わる柱状節理も、噴火の「作品」のひとつです。「山の地質」カテゴリで、山の成り立ちを地球規模で読み解いています。

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富士山の地質:三つのプレートがせめぎ合う場所に、なぜ日本一の山ができたのか https://chikyu-yama.online/fuji-geology/ https://chikyu-yama.online/fuji-geology/#respond Mon, 13 Jul 2026 02:10:20 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=1562 富士山は3枚のプレートがせめぎ合う場所の真上に立つ、4つの火山が積み重なった玄武岩質の成層火山です。なぜ日本一の山があの場所にあるのか、プレートレベルで解説します。

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富士山は、フィリピン海プレート・ユーラシアプレート・北米プレートという3枚のプレートがせめぎ合う場所のほぼ真上に立つ、4つの火山が積み重なってできた玄武岩質の成層火山です。標高3,776m、山体の体積は約400km³。日本の火山の多くが100km³以下ですから、2位以下を寄せ付けない圧倒的な体格です。なぜ「あの場所」にだけ、これほど巨大な火山が育ったのか。答えは山頂ではなく、地下深くのプレートの事情にあります。

この山を地学的に読むポイントは3つあります。3枚のプレートが出会う特異な場所に立っていること。見た目は一つの山ですが中身は4つの火山が積み重なった「4階建て」であること。そして日本の火山では異例の、玄武岩質マグマを噴き続けてきたことです。

甲斐駒ヶ岳から望む富士山のシルエット
甲斐駒ヶ岳の山頂から望んだ富士山。手前の山々より頭ひとつどころか胴体ごと抜けています。この「異常な大きさ」こそ、地下のプレート構造の産物です。

なぜ富士山は「あの場所」にあるのか?

結論から言うと、富士山の下では3枚のプレートがせめぎ合い、さらに沈み込んだプレートに「裂け目」ができていて、そこからマグマが供給され続けているためです。

日本列島の火山は、プレートの沈み込みに伴って帯状に並びます。ところが富士山の立地は特別です。産総研地質調査総合センターの解説によると、富士山はユーラシアプレート・北米プレート・フィリピン海プレートという3つのプレートが交差する複雑な場所に形成され、伊豆半島の付け根付近に成長しています。南から北上してきた伊豆半島は、フィリピン海プレートに乗って本州に衝突した「元・南の海の火山島」です。この衝突の現場のすぐ脇に、富士山は立っています。

さらに内閣府の宝永噴火報告書は、興味深い仮説を紹介しています。地震波の解析によると、富士山の地下では沈み込んだフィリピン海プレートの板(スラブ)が、北西へ進む部分と西へ進む部分に引き裂かれているように見えます。その裂け目を埋めるように、深部からマグマが上昇し続けている——つまり富士山の地下には、マグマの供給が止まらない「構造的な蛇口」がある、という考え方です。日本一の山の正体が「プレートの破れ目」だとすると、なかなか身も蓋もない話です。

関連記事:フィリピン海プレートが作った日本の山——年間6cmの沈み込みが富士山と南アルプスを生んだ

プレート境界は富士山の真下を通っている

富士山は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの沈み込み境界である駿河トラフの、内陸側の延長部に位置しています。この境界は駿河湾から富士山の下を通り、丹沢山地の南縁を抜けて、東側の足柄平野から相模湾へと続いています。

さらに、フィリピン海プレートの下には太平洋プレートが沈み込んでいます。ユーラシア、北米、フィリピン海の3枚が接する三重点の下に太平洋プレートも加わるため、富士山の地下構造は複雑になっています。

富士山のように非常に大型の火山が成長したのは、この三重点の地下構造がマグマの上昇しやすい条件をつくっているためと推定されています。

富士山は「4階建て」——中身は4つの火山

富士山は一つの火山に見えますが、産総研の富士火山地質図(第2版)によると、実際には4つの火山が積み重なった構造をしています。1階が先小御岳火山(約27〜16万年前)、2階が小御岳火山(約10万年前)、3階が古富士火山(約10万〜1.7万年前)、そして表面を覆う4階が新富士火山(約1.7万年前〜現在)です。私たちが「富士山」と呼んで眺めている優美な山体は、いわば最上階の外装だけで、その下に3つの古い火山が丸ごと埋まっています。

富士山の4層構造の断面図:先小御岳・小御岳・古富士・新富士とフィリピン海プレート
富士山の内部構造の模式図。4つの火山が積み重なり、深さ約20kmのマグマ溜まりから供給を受けています。

面白いのは、1階の先小御岳火山が発見されたのが2004年、東京大学地震研究所のボーリング調査によってだったことです。日本でいちばん有名な山の「1階部分」が、つい20年ほど前まで誰にも知られていなかったわけです。しかも2階の小御岳火山の山頂部は、富士スバルライン五合目の小御岳神社付近に顔を出しています。観光バスで賑わうあの五合目は、実は「先代の富士山の山頂」です。

なぜ富士山だけが玄武岩を噴き続けるのか?

富士山の噴出物は主に玄武岩(SiO₂ 49〜52%、気象庁)で、これは日本の火山としては異例です。日本の火山の大半は、より粘り気の強い安山岩質のマグマを噴出します。理由として、山梨県富士山科学研究所の研究では、富士山のマグマ溜まりが約20kmと他の火山より深い位置にあることが挙げられています。深い場所ではマグマの化学組成が変化(分化)しにくく、サラサラの玄武岩質のまま上昇してくるのです。前述の「裂け目からの絶え間ない供給」も、マグマが地下で熟成する暇を与えません。

この「サラサラのマグマ」こそが、富士山の姿を決めました。粘性の低い溶岩は遠くまで流れ、広大な裾野をつくります。爆発的噴火によるスコリアや火山灰と、流れやすい溶岩が交互に積み重なって、あの均整のとれた円錐形ができあがりました。つまり富士山の美しさは、マグマ溜まりの深さの産物です。絵葉書のような山容の設計者が地下20kmにいると考えると、山の見え方が少し変わります。

富士山の山頂火口(大内院)。内壁に溶岩とスコリアの互層が見える
お鉢巡りの途中で覗き込んだ山頂火口(大内院)。内壁に、溶岩と火山砕屑物が交互に積もった縞模様がそのまま露出しています。成層火山の「断面図」を実物で見られる場所です。

この互層は、山頂火口を一周する「お鉢巡り」で実際に見下ろせます。私が覗き込んだときの正直な感想は「教科書の断面図がそのまま置いてある」でした。優美な外観とは裏腹に、火口の内側は赤黒い岩壁が荒々しく口を開けていて、この山が「積み上げてきた山」であることを一目で納得させられます。

富士山周辺の地形図:剣ヶ峰・宝永第一火口・宝永山
富士山周辺の地形図。等高線が同心円状に整然と並ぶ一方、南東斜面には宝永火口の「傷跡」がはっきり残っています(出典:国土地理院)。

宝永噴火——山頂ではなく「横っ腹」から

富士山の最新の噴火は1707年の宝永噴火です。気象庁の記録によると、噴火の49日前には南海トラフの巨大地震である宝永地震(M8.6級)が起きています。噴火は山頂ではなく南東の山腹で始まり、16日間続きました。噴出物の総量は約1.7km³。火山灰は偏西風に乗り、100km以上離れた江戸の町にも約2cm積もりました。

このとき南東斜面に開いた宝永第一火口は、直径1km超と山頂火口より大きな穴です。地形図で見ると、完璧な同心円の等高線が南東側だけ大きく乱れているのがわかります。そして実は、富士山の山腹にはこうした側火山(山腹の火口)が約70〜100個も並んでいます。産総研の資料によると、過去5,600年間の噴火は約180回。平均すると約30年に1回のペースで噴火してきた計算ですが、宝永噴火から現在まで約320年間沈黙しています。ペース配分としてはかなりの「貯め込み」で、だからこそ富士山は今も気象庁の常時観測対象です。

山は崩れる——御殿場岩屑なだれ

もう一つ、富士山の履歴書には見逃せない項目があります。約2,900年前、東側の山体が大規模に崩壊しました(御殿場岩屑なだれ)。火山学会誌の論文によると、崩れた土砂は岩屑なだれと泥流を合わせて約1.8km³。現在の御殿場市街の一帯は、この崩壊の堆積物の上に載っています。原因は噴火ではなく、熱水で脆くなった山体が地震などで崩れたと推定されています。成層火山は積み木のように「積んだものはいつか崩れる」宿命を抱えていて、これは崩れ続ける成層火山・伯耆大山と同じ構図です。

登山ルート別・地学の見どころ

富士山の4本の登山ルートは、それぞれ違う「地質の教科書」を歩きます。吉田ルートの起点・富士スバルライン五合目は前述のとおり小御岳火山の山頂部で、4階建ての「2階の屋上」から登り始める構図です。富士宮ルートは新富士期の溶岩流の上を直登するルートで、足元の岩には白い斜長石の粒(産総研によると最大4〜12mm)が目立ちます。御殿場ルートは宝永噴火のスコリアが厚く積もった斜面で、名物の下山路「大砂走り」は一歩で数メートル進む砂礫の道——つまり300年前の噴出物の上を滑り降りる遊びです。須走ルートは樹林帯を長く歩ける唯一のルートで、溶岩の上に森が再生する時間の長さを体感できます。

私自身、8月上旬の富士山を夜通しで登り、山頂でご来光を迎えたことがあります。夜中の登山道はヘッドランプの列が九十九折に連なり、登山というより行列の最後尾に並ぶ感覚でした。それでも夜明け前、雲海の縁がオレンジに染まり始めた瞬間、行列への不満は消えます。玄武岩の黒い斜面と雲海だけの、装飾のない夜明けです。

富士山山頂付近から見たご来光と雲海
山頂直下で迎えたご来光。手前の黒い稜線が玄武岩の山体です。標高3,700m台から見る夜明けは、雲海が眼下に沈み、地球の丸みを疑い始める高さです。
日本最高峰富士山剣ヶ峰の石碑
剣ヶ峰の石碑。日本の最高地点をつくる岩は新富士火山のもので、地質学的には約1.7万年前以降にできた「日本一高くて、かなり若い」場所です。

そして富士山は、離れた山から眺めたときにも「効く」山です。甲斐駒ヶ岳の山頂から見た富士山は、雲海の上に一つだけ浮かぶ影でした。周囲の山と高さの桁が違うので、遠近感が狂って距離が掴めません。あの違和感の正体が「プレート3枚とスラブの裂け目」だと知ってからは、美しいというより、少し不気味な山として眺めています。

富士山からプレートの世界へ

富士山を持ち上げたフィリピン海プレートは、南アルプスや丹沢も育てた「日本の山の大スポンサー」です。伊豆半島の衝突が押し上げた甲斐駒ヶ岳の白い花崗岩、そして富士山のすぐ東で口を開ける南海トラフ。これらを繋げて読むと、日本列島の南半分の地形が一本のストーリーになります。「山の地質」カテゴリでは、日本の山々の成り立ちをプレートレベルで解説しています。

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フィリピン海プレートが作った日本の山——年間6cmの沈み込みが富士山と南アルプスを生んだ https://chikyu-yama.online/philippine-sea-plate-japan-mountains/ https://chikyu-yama.online/philippine-sea-plate-japan-mountains/#respond Tue, 30 Jun 2026 04:37:40 +0000 https://chikyu-yama.online/?p=1410 フィリピン海プレートは年間約6cmで日本列島の下に沈み込んでいます。その動きが富士山を噴かせ、南アルプスを押し上げ、伊豆半島を本州に衝突させました。日本の山の成り立ちをプレートレベルで解説します。

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フィリピン海プレートとは何か

日本列島の山々の成り立ちを語るとき、必ず登場するプレートがあります。フィリピン海プレートです。名前にフィリピンがついていますが、このプレートが最も深く関与しているのはフィリピンよりも日本側の地形です。富士山が噴火を繰り返してきた理由も、南アルプスがあの位置に存在する理由も、根本をたどるとこのプレートの動きに行き着きます。

フィリピン海プレートは日本列島の南から東南にかけて広がる海洋プレートで、面積はおよそ550万km²です。主要なプレートの中では中程度の大きさです。移動速度は年間約4〜6cm、方向は北西〜北北西です。この速さで5000万年動き続けると、累計の移動距離は2000〜3000kmを超えます。現在のフィリピン海プレートはかつてずっと南方に位置しており、長い時間をかけて現在の場所に到達しました。

このプレートが日本列島にもたらした影響は、大きく二つに整理できます。ひとつは「沈み込みによるマグマ生成と火山活動」、もうひとつは「海底堆積物が剥ぎ取られて形成される付加体の隆起」です。富士山は前者の典型例で、南アルプスは後者の典型例です。そして伊豆半島は、プレートそのものが本州に衝突し続けているという、やや趣の異なる事例です。

フィリピン海プレートと周辺4プレート(ユーラシア・北米・太平洋)の配置図
フィリピン海プレートと周辺プレートの配置。南海トラフ・相模トラフ・伊豆小笠原海溝を境界として、北西方向へ年間約6cmで日本列島の下に沈み込む。
フィリピン海プレートの三つの働き。火山の形成・付加体の隆起・伊豆半島の衝突
フィリピン海プレートの三つの仕事。火山をつくり(富士山・箱根)、山を持ち上げ(四国山地・紀伊山地)、半島をぶつける(伊豆→南アルプス圧縮)。1枚のプレートの多才ぶりです。

フィリピン海プレートと地震——南海トラフ・東海地震との関係

フィリピン海プレートは、山を造るだけでなく地震も引き起こしています。このプレートがユーラシアプレートの下に沈み込むことで発生する海溝型地震が、東海地震・東南海地震・南海地震です。震源域は駿河湾から四国沖にかけての南海トラフに沿って連なっており、富士山や南アルプスを隆起させたのと同じ沈み込み運動が、その震源をつくっています。

1923年の関東大震災(大正関東地震)も、フィリピン海プレートが関東地方の下で北アメリカプレートに沈み込む運動に伴って発生した地震です。相模トラフ沿いのこの沈み込みは、丹沢山地や伊豆半島の衝突と地続きの現象であり、山地形成と地震はどちらも同じプレート境界で起きています。

登山道で目にする隆起した地層や断層地形は、遠い過去の出来事の痕跡ではなく、現在も進行しているプレート沈み込みの一部です。山を歩くことは、地震を起こしている境界そのものの上を歩くことでもあります。

沈み込みがマグマを作る仕組み

フィリピン海プレートは、東海・紀伊半島・四国の沖合にある南海トラフと、伊豆半島東方の相模トラフから、ユーラシアプレートおよび北米プレートの下へ沈み込んでいます。海洋プレートは大陸プレートより密度が高いため、境界では海洋側が必ず下に入り込みます。

沈み込みが深まると、プレート内に含まれていた水(含水鉱物として固定されていたもの)が高温高圧の環境下で放出されます。この水がマントルに供給されると、マントル岩石の融点が下がり、通常では溶けないはずの岩石が部分的に溶け始めます。これがマグマの起源です。沈み込んだプレートの上方に位置するマントル部分を「マントルウェッジ」と呼びます。ここで生成されたマグマは浮力を得て地殻を上昇し、地表に達すると火山として噴出します。

フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフ・相模トラフの内陸側を見ると、富士山・箱根・伊豆大島などの火山が一定の間隔で並んでいます。「火山フロント」と呼ばれるこの配列は、沈み込むプレートが一定の深度(概ね100〜150km)に達した地点の真上に火山が形成されるという法則性を反映しています。火山の分布そのものが、地下のプレートの形状を示す指標になっています。

フィリピン海プレートの沈み込み断面図
フィリピン海プレートが沈み込む際にマグマが生成されるメカニズム。含水鉱物が分解した水がマントルウェッジに供給されて融点が下がる。

富士山の形成史——3776mは地質学的に「ほぼ今できた」山

富士山の標高は3776mで日本最高峰ですが、地質学的な年齢はかなり若い部類に入ります。現在の富士山(新富士火山)の主要な活動が始まったのは約1万年前で、前身の古富士火山を含めても形成の始まりはおおよそ10〜20万年前です。北アルプスや南アルプスが数百万年かけて現在の形に近づいてきたのと比べると、富士山は地質年代でいえばほぼ「現代」に作られた山です。日本で最も高い山が、最も若い山のひとつでもあります。

富士山は玄武岩質のマグマが繰り返し噴出して形成された成層火山です。流動性の高い玄武岩質溶岩が広範囲に流れ出したことで、緩やかな傾斜と広い裾野を持つ山容が形成されました。現在の山頂部は噴石や火山灰が積み重なった構造で、頂部ほど堆積物が脆弱です。富士山がこの3200年ほどで10回以上の大規模噴火を繰り返してきたことを考えると、現在の山体は「完成形」というより「今この時点の状態」に近い表現が実態に即しています。

七合目から上の斜面を歩くと、足元にはスコリアと呼ばれる多孔質の黒い火山礫が広がっています。踏み込むたびにざりざりと崩れ、足場が定まらないまま標高を稼ぐことになります。雨の直後でも砂が乾いたように滑る感触は、富士山がまだ堆積物を積み上げている途中の若い火山であることを、足裏から直接知らせてくれます。

トリプルジャンクション近傍という特殊な立地

富士山はフィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北米プレートの三つが集まるトリプルジャンクションの近傍に位置しています。三つのプレートが交わる地点は応力場が複雑で、マグマの供給経路も単純ではありません。1707年の宝永大噴火は宝永地震(推定M8〜8.6)の約49日後に発生しており、大規模なプレート間地震が噴火のトリガーになった可能性が研究者の間で議論されています。プレートの動きが地震を起こし、その地震が噴火を誘発するという連鎖は、富士山周辺のプレート環境の複雑さを示しています。

富士山・伊豆半島周辺地形図
富士山・伊豆半島周辺の地形図(出典:国土地理院)

付加体が山に変わる:南アルプスの隆起

フィリピン海プレートが沈み込む際、プレート表面に堆積していた海底の堆積物は沈み込まずに削り取られ、プレートの縁に積み上げられます。この積み重なった堆積物を「付加体」と呼びます。

付加体を構成する岩石のひとつにチャートがあります。チャートはもともと深海底に堆積した放散虫(直径0.1mm程度のプランクトン)の殻が固まったものです。水深2000〜4000mの海底で形成された岩石が、プレートの動きで日本まで運ばれ、地殻の圧縮を受けて隆起し、現在では3000m級の稜線に顔を出しています。深海の堆積物が山頂近くに到達するまでの経路は、どう考えても遠回りです。

南アルプス(赤石山脈)の基盤の大部分は、このような付加体で構成されています。中生代から古第三紀にかけて形成された付加体が、フィリピン海プレートの押し込み力による水平圧縮を受けて数百万年かけて隆起し、現在の山脈を形成しました。北アルプスが花崗岩を主体とするマグマ起源の地質を持つのに対し、南アルプスは付加体という「拾い集められた海底の堆積物」を基盤とする、成り立ちの異なる山脈です。

南アルプスは現在も隆起を続けており、隆起速度は年間数mmのオーダーと推定されています。一方で、急峻な地形と日本有数の豊富な降水量により、侵食もきわめて速く進んでいます。隆起と侵食がほぼ釣り合っているため、山脈の高さはここ数百万年で大きくは変化していない可能性があります。フィリピン海プレートに押し上げられながら、同時に雨と川に削られ続けている山です。

関連記事:リニアはなぜ南アルプスを貫くのか——土被り1,400m、日本最難関トンネルの地質学

伊豆半島の衝突:プレートに乗った弧が本州に到達した

フィリピン海プレートの上には、伊豆・小笠原弧と呼ばれる海底火山の列があります。太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込む際に形成された火山島弧で、伊豆諸島から小笠原諸島にかけて連なっています。

この弧がフィリピン海プレートに乗って北上を続け、約100万年前から現在にかけて本州(ユーラシアプレート)に衝突し続けているのが伊豆半島です。伊豆半島はもともと太平洋上に存在した海洋島弧であり、それが本州に付け加わったものです。伊豆の地質が周辺の関東・東海の地質と大きく異なるのは、もともと別の場所でできた地塊が運ばれてきたためです。

この衝突は現在も続いており、伊豆半島は今も少しずつ本州に押し込まれています。天城山(1406m)をはじめとする伊豆の山々は、この衝突による圧縮と隆起の産物です。現在進行中の衝突の上に乗っている山という意味では、伊豆の山は静止した地形として見るより、現在進行形の出来事の一部として見た方が実態に近いかもしれません。

この衝突はフォッサマグナの東縁とも深く関わっています。フォッサマグナ(大地溝帯)の東縁を構成する変形帯は、伊豆・小笠原弧の衝突による圧縮と変位の痕跡と一致しており、フィリピン海プレートの動きは日本列島の「継ぎ目」の形成にも直接関与しています。

関連記事:フォッサマグナと日本列島の継ぎ目——大地溝帯が生んだ地形の謎

登山ルートで地学を読む

富士山:溶岩流の跡を歩く

富士山の主要登山道(吉田・須走・御殿場・富士宮口)はいずれも、過去の噴火で流れ出た溶岩の上を歩くルートです。御殿場口ルートでは宝永山の火口壁を間近に見ることができます。火口壁の断面には複数回の噴火による堆積層が縞状に重なっており、富士山が単発の噴火ではなく、繰り返しの積み重ねで現在の形になってきた山であることが断面から読み取れます。1707年の宝永噴火から300年以上が経過した現在でも、火口の形状はほぼそのまま残っています。

南アルプス:稜線に出てきた深海の岩

南アルプスの稜線を歩くと、緑がかった灰色の岩が散在している区間があります。付加体を構成するチャートです。仙丈ヶ岳や赤石岳の登山道でも踏む機会があります。急登で息が上がっているときに足元を見ると、もとは深海2000〜4000mにあった岩が転がっています。体力の消耗と岩の来歴は完全に無関係ですが、岩の方のスケールはかなり上をいっています。

南アルプスには北アルプスのようなカールや氷河湖といった氷河地形は顕著ではありません。隆起速度と降水量がともに大きいため、氷河が地形を整える前に河川侵食が進んでしまったと考えられています。V字状に深く切れ込んだ谷と急峻な尾根は、侵食が卓越している山脈の典型的な地形です。

プレートの動きはまだ終わっていない

フィリピン海プレートの沈み込みは現在も進行中です。南海トラフではプレート間の固着と周期的な解放(巨大地震)が繰り返されており、過去の記録からは100〜200年に一度の間隔で大規模地震が発生してきたことが確認されています。地震そのものが、プレートが今も動き続けていることの証拠です。

富士山のマグマの供給は継続しており、次の噴火がいつ起きるかは現時点で特定できません。南アルプスも今日も数mmの単位で変動しています。登山者が歩くルートの標高は毎年わずかに変化している可能性があります。計算はできますが、登山靴のサイズ選びに反映させる人はおそらくいません。


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