太平洋プレートとは何か——世界最大のプレートが日本海溝に沈み、東北の山々を作る

岩手山の山頂付近から見た赤い火山礫の斜面と御鉢の外輪山、眼下に広がる岩手の平野 山の地質

太平洋プレートは、太平洋の海底のほぼ全体を占める世界最大のプレートで、年間約8cmの速さで日本列島に近づき、日本海溝から地球の内部へ沈み込んでいます。蔵王も安達太良も磐梯も、東北の名だたる山はこの沈み込みが作りました。ついでに言うと、2011年の巨大地震を起こしたのも同じプレートです。東北の山に登ることは、世界最大のプレートの働きを足で確かめることでもあります。

この記事のポイントは3つあります。①太平洋プレートは世界最大かつ最古級の海のプレートであること。②日本海溝から沈み込み、深さ約100kmで水を吐き出して東北の火山列を作っていること。③火山だけでなく、東北の背骨である奥羽山脈の隆起や巨大地震にも関わっていること。

日本列島周辺の4つのプレートと沈み込み帯
日本列島の周辺には4つのプレートがひしめく。太平洋プレートは東側から日本海溝・伊豆小笠原海溝に沈み込む

太平洋プレートはどれくらい大きいのか?

結論から言うと、地球上のどのプレートよりも大きく、面積は約1億km2に達します。日本の国土の約270枚分です。太平洋の海底が、ほぼ一枚の岩の板として、まとまって同じ方向に動いています。ハワイもこの板の上の乗客で、国土地理院の宇宙測地技術(VLBI)による観測では、ハワイは年間約6cmずつ日本に近づいていることが実測されています。1億年ほど待てばハワイ旅行が国内旅行になる計算ですが、その頃のハワイは海溝から地球の中へ沈み込む順番を待つ島になっています。

太平洋プレートの大きさを示す地図。面積約1億km2の範囲が太平洋のほぼ全体を占め、ハワイもこのプレートに乗って年に約6cm日本へ近づいている
太平洋プレートの大きさ(筆者作図)。面積は約1億km²、日本の国土およそ270個分。ハワイもこの板の上に乗っている。

古さも際立っています。太平洋プレートが生まれたのは約1.9億年前、恐竜がいたジュラ紀です。日本海溝のあたりまで旅してきた海底の年齢は約1.3億年。つまり日本の目の前に横たわっているのは、恐竜時代に作られた海底です。プレートの表面は生まれたときは熱く、海の中を数千kmかけて移動するあいだに冷えて重くなります。1.3億年も冷え続けた太平洋プレートは十分に重く、だから日本海溝で深々と沈み込めるわけです。

日本海溝で何が起きているのか?

東北の沖合約200kmの海底には、深さ約8,000mの細長い谷が南北に走っています。これが日本海溝で、太平洋プレートが東北の乗る陸側のプレートの下へ潜り込んでいく、その曲がり目です。地震調査研究推進本部(地震本部)の解説によると、太平洋プレートはほぼ東南東の方向から年間8cm程度の速さで日本列島に近づき、ここで陸側のプレートの下に沈み込んでいます。

沈み込むプレートは、ただ静かに消えていくのではありません。海底で長い年月をかけて水を含んだプレートは、深く沈んで高温・高圧にさらされると、抱えていた水を絞り出されます。地震本部の解説では、沈み込んだプレートが深さ100〜150kmに達したあたりで、放出された水が上のマントルの岩石の融点を下げ、マグマを発生させます。岩は乾いていると溶けにくく、水を含むと溶けやすくなる——この地味な性質が、東北の火山の出発点です。

太平洋プレートが日本海溝から沈み込み深さ約100kmで水を放出しマグマと火山フロントを作る断面図解
太平洋プレートの沈み込みと東北の火山のでき方。模式図で、縦方向は誇張しています。マグマ発生の深さと沈み込み速度は産業技術総合研究所・気象庁の資料にもとづきます。

なぜ東北の火山は一列に並ぶのか?

マグマが発生する条件が「プレートが深さ約100kmに達すること」なので、火山は海溝から一定の距離だけ離れた場所に、海溝と平行に一列に並びます。この列の海溝側の最前線を火山フロントと呼びます。東北大学の解説によると、東北地方では海溝から西へ約300kmの位置に火山列が走り、それがちょうど奥羽山脈に重なります。蔵王、安達太良、磐梯、吾妻——東北のスター級の山がきれいに南北一列に並んでいるのは、偶然ではなく幾何学です。地図で確かめたくなった方は、日本の活火山111の並び方の法則で実データの地図を載せています。

私が岩手山に登ったとき、山頂の薬師岳から御鉢を見下ろして言葉を失いました。緑をまとった稜線の内側に、突然、草木のない巨大な窪地が現れます。底には、さらに小さな火口丘が立っている。あの荒涼とした風景の燃料は、200km東の海の底から運ばれてきた1.3億年前の海底と、そこから絞り出された水です。火口の縁に立って「これは海のしわざか」と思うと、目の前の景色のスケールが一段深くなります。

岩手山の山頂火口である御鉢を見下ろした風景。中央に小さな火口丘が立ち、奥には雲海と平野が広がる
岩手山の山頂火口・御鉢。太平洋プレートが送り込んだ水が、この風景の燃料になっている

火山フロントは東北で終わりません。北へたどれば北海道から千島列島へ続きます。支笏湖の畔にそびえる樽前山も、太平洋プレートの沈み込みが作った火山のひとつです。1時間で登れる手軽な山ですが、動いているエンジンは世界最大のプレートです。樽前山の登山記録では、山頂に鎮座する溶岩ドームを間近に見た様子を書いています。

樽前山山頂から見下ろす支笏湖
樽前山から見下ろす支笏湖。北海道の火山も太平洋プレートの沈み込みが動かしている

奥羽山脈の隆起と巨大地震——火山以外の仕事

東北の背骨を持ち上げる

東北の山はすべてが火山ではありません。奥羽山脈という長さ約500kmの山脈全体が、東西から圧縮されて持ち上がっています。産総研の研究によると、日本列島は約300万年前から東西方向に強く押され始め、地殻が縮んで山脈と盆地が作られてきました。興味深いことに、同じ産総研の2017年の発表では、この東西圧縮を生んだ主因は、フィリピン海プレートの運動によって日本海溝の位置そのものが西へ押し寄せてきたことだと結論づけられています。太平洋プレートが沈み込む「現場」である日本海溝が、東北をじわじわ圧迫する——プレート同士の仕事は絡み合っていて、単独犯はなかなかいません。フィリピン海プレート側の仕事ぶりはフィリピン海プレートが作った日本の山で書いています。

一瞬で65mずれた日

年間8cmという速度は、日常の感覚ではゼロと同じです。ただしプレートは毎年律儀に8cmずつ滑ってくれるわけではなく、境界が固着したまま数百年分のひずみを溜め、あるとき一気に解放します。それが2011年の東北地方太平洋沖地震でした。JAMSTECが地球深部探査船で震源域を掘削した調査では、宮城県沖の断層のずれは海溝軸まで達し、その量は最大65mと推定されています。年間8cmの動きが、800年分まとめて数分で動いた計算です。山を作る力と巨大地震を起こす力が同じものだという事実は、東北の山に登るときに知っておいて損のないことだと思っています。

ハワイの海山が教えてくれるプレートの旅路

太平洋プレートの動きは、海底の地形にも記録されています。ハワイから日本へ向かって、海底火山の列(天皇海山列)が点々と延びています。マントルの深部から熱い物質が上がってくる場所(ホットスポット)の上をプレートが通過するたびに火山島が作られ、ベルトコンベアのように運ばれていった跡です。列の途中には「く」の字の折れ曲がりがあり、かつてはプレートが約4,000万年前に進行方向を変えた証拠とされてきました。近年の研究では、ホットスポット自体が動いていた効果も大きいと考えられるようになっています。いずれにせよ、海底には1億年分の移動履歴が一列に保存されているわけです。ドライブレコーダーより律儀な記録です。

その終着点が日本海溝です。ハワイ生まれの海山たちも、いずれ順番に海溝へ到着し、沈み込んでいきます。東北の山に登って東の水平線を眺めるとき、そこには世界最大のプレートの終着駅があります。日本の山の並び方をプレート全体から見た話は、日本の山はなぜここにある?にまとめています。

山の成り立ちや地質の話は、カテゴリ「山の地質」でほかにも多数書いています。

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