マグマは海の水から生まれる——「プレートが水を絞り出す」を本気でイメージする

山の地質

日本の火山のマグマは、海の水が地下深くでマントルを融かすことで生まれます。「海洋プレートが沈み込み、水が絞り出されてマグマになる」——火山の解説には必ず出てくる一行で、当ブログでも何度も書いてきました。ただ正直なところ、この説明を読んで頭の中に絵が浮かんでいる人は少ないと思います。プレートを絞る?誰が?雑巾みたいに?

この記事では、この一行を分解して本気でイメージできるところまで持っていきます。水はどこから入るのか、「絞る」の正体は何なのか、なぜ深さ110kmで水が出てくるのか、そしてその証拠がなぜ地図の上に描いてあるのか。読み終わる頃には、山頂で噴気を見る目が変わるはずです。

沈み込み帯の断面図。海洋プレートが日本海溝から沈み込み、深さ約110kmで水を放出し、マントルが融けてマグマが上昇し火山フロントの火山になる仕組み
この記事の全体像。海溝から沈み込んだプレートが深さ約110kmで水を放し、その水がマントルを融かしてマグマになります。

「絞り出す」は雑巾ではない——水は石の中に組み込まれている

まず最大の誤解ポイントから。「水を絞り出す」と聞くと、濡れたスポンジや雑巾がぎゅっと押されて水が滲み出る絵を想像しますが、実際に起きているのは化学反応です。プレートの岩石を作る鉱物が海水と反応すると、水を自分の結晶構造の中に取り込んだ別の鉱物に変わります。代表格が蛇紋石(じゃもんせき)——名前は覚えなくても大丈夫で、「水の分子を内蔵した石」だと思ってください。

身近なところに、そっくりな仕組みがあります。住宅の壁に入っている石膏ボードです。石膏は結晶の中に約2割の水を抱えていて、火事のときに熱で分解されると、この水を放出して壁の温度上昇を防ぎます。普段は乾いた板にしか見えないのに、いざとなると水を吐き出す。沈み込むプレートが抱えている水も、これと同じ「結晶の中の水」です。触っても濡れていません。でも確かに水を運んでいます。

水はどこから入るのか——海溝の手前でプレートは割れる

では海水はいつプレートに入り込むのか。主な入口は、意外にも沈み込む直前です。海洋プレートは海溝に差しかかると、下向きに折り曲げられます。硬い板を曲げれば表面が割れる——プレートも同じで、海溝の手前には曲げによる断層(亀裂)が無数にでき、そこから海水が内部に染み込んで鉱物と反応します。つまりプレートは、沈み込む直前に「最後の給水」をしてから地球の中に入っていきます。

その量が桁外れです。地球全体で、沈み込むプレートが地下へ持ち込む水は年間およそ23億トンと見積もられています(海洋研究開発機構などの研究による)。ピンとこない数字なので変換すると、琵琶湖の水(約275億トン)が12年ほどで空になるペースです。滋賀県民に怒られそうな例えですが、それが毎年、何億年も続いてきたのが地球という惑星です。

深さ110kmで何が起きるのか——水を手放し、マントルが融ける

水を内蔵した鉱物は、どこまでも水を持っていられるわけではありません。沈み込みが進んで温度と圧力が上がると、ある深さで結晶構造が壊れ、抱えていた水を一気に手放します。それが起きるのが深さおよそ100〜110km。石膏ボードが火事の熱で水を吐き出すのと同じことが、地下110kmで起きるわけです。

放出された水は、すぐ上にあるマントルの岩石に染み込みます。ここで本題の「なぜ水でマグマができるのか」。地下110kmのマントルは1,000℃を超える高温ですが、圧力が高いため、それでも融けずに固体のままでいます。ところが水が加わると、岩石の融ける温度(融点)が約200℃下がることが実験で確かめられています。氷に塩をかけると0℃より低い温度で融けるのと同じ原理です。凍った道路に融雪剤をまくあの理屈が、地下110kmでマグマを作っています。

融けてできたマグマは周囲の岩石より軽いため、浮力で上昇を始めます。つまり整理するとこうなります。水が「石の融点を下げるスイッチ」であり、そのスイッチが入る深さが110kmに決まっている。ここまで分かると、次の話が一気に面白くなります。

なぜ火山は一列に並ぶのか——証拠は地図に描いてある

「水を放す深さが110kmに決まっている」なら、マグマが生まれる場所も決まります。沈み込んだプレートの深さがちょうど110kmになる地点の、真上です。プレートは一定の角度で斜めに沈み込んでいるので、この条件を満たす場所は海溝と平行な1本の線になります。その線に沿って火山がずらりと並ぶ——これが火山フロントです。

東北日本の火山フロントの地図。恐山から那須岳まで活火山が日本海溝と平行に一列に並ぶ
東北の活火山は日本海溝から約300kmの線上に整列しています。偶然ではなく、地下の幾何学の必然です。出典:国土地理院

上の地図を見てください。恐山・八甲田山・岩手山・栗駒山・蔵王山・吾妻山・安達太良山・那須岳——東北の活火山は、日本海溝から約300km離れた線の上にきれいに整列しています。そしてこの線より東側(太平洋側)に活火山は1つもありません。東側ではプレートがまだ浅く、水を放す深さに達していないからです。山の配置という地上の風景が、地下110kmの化学反応の位置をそのまま写し取っている。個人的には、日本地図の中でいちばん美しい「証拠」だと思っています。

日本に111もの活火山がある理由も、これで説明がつきます。日本列島は4枚のプレートがひしめく場所で、太平洋プレートとフィリピン海プレートという2枚の海洋プレートがそれぞれ別の海溝から沈み込んでいます。水の供給ラインが2系統ある国、というわけです。詳しくは活火山とは何かを解説した記事でまとめています。

スケールを数字で体感する——爪の速さと300万年

ここまでの話を「体感できる数字」に変換してみます。スケールが大きすぎる話は、身近なものに置き換えた瞬間に急に手触りが出ます。

地球の数字体感への変換
プレートの速度:年8cm爪が伸びるのとほぼ同じ速さ
沈み込む水:年23億トン琵琶湖が12年で空になるペース
水を放す深さ:110km大阪駅から姫路駅を越える距離を、真下に
海溝から火山までの旅:約300万年人類の祖先が石器を使い始めてから現在まで

特に最後の1行を強調したいのです。海底が海溝に沈み込んでから、深さ110kmに到達して水を手放すまで、年8cmの歩みで約300万年かかります。つまり、いま東北の火山の下でマグマを作っている水は、人類がようやく石器を打ち始めた頃に太平洋の海底だった水です。時間の桁の感覚は「桁」で読む地質時間の記事で詳しく書きましたが、火山とは「300万年前の海水を今日噴き出す装置」だと言い換えることもできます。

山で「海の水」に出会う場所

この話の良いところは、登山の現場で答え合わせができることです。火山の山頂部でシューという音とともに上がる噴気。あの白い湯気の主成分は水蒸気で、その水にはマグマから抜けてきた水——つまり、はるか昔に沈み込んだ海の水が含まれています。

焼岳の火口。残雪と硫黄の黄色い付着物、岩の間から上がる噴気
残雪期の焼岳山頂部。岩に付いた黄色は硫黄。近くでは噴気の音が聞こえます。

私が焼岳に登ったとき、山頂直下では硫黄の匂いが漂い、岩の隙間から絶え間なく噴気が上がっていました。温泉街に来たわけでもないのに卵の匂いがする違和感。あれこそが「地下のマグマがすぐそこにいる」というサインで、言い換えれば300万年がかりの水の旅の、最後の数百メートルを見ていたことになります。そう思うと湯気の見え方が変わりませんか。私は変わりました。

安達太良山の稜線から見た沼ノ平火口の荒涼とした風景
安達太良山の沼ノ平火口。緑の稜線を歩いてきた先に、突然この光景が開けます。

安達太良山もいい例です。緑の登山道をのんびり歩いてきた先で稜線に出ると、突然、月面のような沼ノ平火口が目の前に開けます。あの荒涼とした窪みも、地図で見れば火山フロントの線上。足元の風景と、地下110kmの水の放出と、沖合300kmの日本海溝が、1本の線でつながっています。日本の火山ランキングの記事で紹介した山々も、ほぼすべてこの仕組みの上に立っています。

まとめ——「絞り出す」の正体

最後に、冒頭の一行を分解した結果をまとめます。

  • 水は海溝の手前でプレートの亀裂から染み込み、鉱物の結晶の中に取り込まれる(雑巾ではなく石膏ボード方式)
  • 深さ約110kmで鉱物が分解し、水を一斉に放出する
  • 水はマントルの融点を約200℃下げる「融けるスイッチ」として働き、マグマが生まれる
  • スイッチが入る深さが決まっているから、火山は海溝と平行に一列に並ぶ(火山フロント)

「プレートが水を絞り出してマグマになる」——同じ一行でも、もう雑巾は思い浮かばないはずです。次に火山の山頂で噴気を見たら、思い出してください。それは300万年前の海です。

山の成り立ちをプレートの視点から解説した記事は「山の地質」カテゴリにまとめています。あわせてどうぞ。

参考資料: 東北大学地震・噴火予知研究観測センター「沈み込み帯の構造とマグマ生成・上昇」/地震調査研究推進本部「火山フロント」/海洋研究開発機構(JAMSTEC)プレスリリース/産業技術総合研究所 地質調査総合センター

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