フィリピン海プレートが作った日本の山——年間6cmの沈み込みが富士山と南アルプスを生んだ

山の地質

フィリピン海プレートとは何か

日本列島の山々の成り立ちを語るとき、必ず登場するプレートがあります。フィリピン海プレートです。名前にフィリピンがついていますが、このプレートが最も深く関与しているのはフィリピンよりも日本側の地形です。富士山が噴火を繰り返してきた理由も、南アルプスがあの位置に存在する理由も、根本をたどるとこのプレートの動きに行き着きます。

フィリピン海プレートは日本列島の南から東南にかけて広がる海洋プレートで、面積はおよそ550万km²です。主要なプレートの中では中程度の大きさです。移動速度は年間約4〜6cm、方向は北西〜北北西です。この速さで5000万年動き続けると、累計の移動距離は2000〜3000kmを超えます。現在のフィリピン海プレートはかつてずっと南方に位置しており、長い時間をかけて現在の場所に到達しました。

このプレートが日本列島にもたらした影響は、大きく二つに整理できます。ひとつは「沈み込みによるマグマ生成と火山活動」、もうひとつは「海底堆積物が剥ぎ取られて形成される付加体の隆起」です。富士山は前者の典型例で、南アルプスは後者の典型例です。そして伊豆半島は、プレートそのものが本州に衝突し続けているという、やや趣の異なる事例です。

フィリピン海プレートと周辺4プレート(ユーラシア・北米・太平洋)の配置図
フィリピン海プレートと周辺プレートの配置。南海トラフ・相模トラフ・伊豆小笠原海溝を境界として、北西方向へ年間約6cmで日本列島の下に沈み込む。

沈み込みがマグマを作る仕組み

フィリピン海プレートは、東海・紀伊半島・四国の沖合にある南海トラフと、伊豆半島東方の相模トラフから、ユーラシアプレートおよび北米プレートの下へ沈み込んでいます。海洋プレートは大陸プレートより密度が高いため、境界では海洋側が必ず下に入り込みます。

沈み込みが深まると、プレート内に含まれていた水(含水鉱物として固定されていたもの)が高温高圧の環境下で放出されます。この水がマントルに供給されると、マントル岩石の融点が下がり、通常では溶けないはずの岩石が部分的に溶け始めます。これがマグマの起源です。沈み込んだプレートの上方に位置するマントル部分を「マントルウェッジ」と呼びます。ここで生成されたマグマは浮力を得て地殻を上昇し、地表に達すると火山として噴出します。

フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフ・相模トラフの内陸側を見ると、富士山・箱根・伊豆大島などの火山が一定の間隔で並んでいます。「火山フロント」と呼ばれるこの配列は、沈み込むプレートが一定の深度(概ね100〜150km)に達した地点の真上に火山が形成されるという法則性を反映しています。火山の分布そのものが、地下のプレートの形状を示す指標になっています。

フィリピン海プレートの沈み込み断面図
フィリピン海プレートが沈み込む際にマグマが生成されるメカニズム。含水鉱物が分解した水がマントルウェッジに供給されて融点が下がる。

富士山の形成史——3776mは地質学的に「ほぼ今できた」山

富士山の標高は3776mで日本最高峰ですが、地質学的な年齢はかなり若い部類に入ります。現在の富士山(新富士火山)の主要な活動が始まったのは約1万年前で、前身の古富士火山を含めても形成の始まりはおおよそ10〜20万年前です。北アルプスや南アルプスが数百万年かけて現在の形に近づいてきたのと比べると、富士山は地質年代でいえばほぼ「現代」に作られた山です。日本で最も高い山が、最も若い山のひとつでもあります。

富士山は玄武岩質のマグマが繰り返し噴出して形成された成層火山です。流動性の高い玄武岩質溶岩が広範囲に流れ出したことで、緩やかな傾斜と広い裾野を持つ山容が形成されました。現在の山頂部は噴石や火山灰が積み重なった構造で、頂部ほど堆積物が脆弱です。富士山がこの3200年ほどで10回以上の大規模噴火を繰り返してきたことを考えると、現在の山体は「完成形」というより「今この時点の状態」に近い表現が実態に即しています。

七合目から上の斜面を歩くと、足元にはスコリアと呼ばれる多孔質の黒い火山礫が広がっています。踏み込むたびにざりざりと崩れ、足場が定まらないまま標高を稼ぐことになります。雨の直後でも砂が乾いたように滑る感触は、富士山がまだ堆積物を積み上げている途中の若い火山であることを、足裏から直接知らせてくれます。

トリプルジャンクション近傍という特殊な立地

富士山はフィリピン海プレート、ユーラシアプレート、北米プレートの三つが集まるトリプルジャンクションの近傍に位置しています。三つのプレートが交わる地点は応力場が複雑で、マグマの供給経路も単純ではありません。1707年の宝永大噴火は宝永地震(推定M8〜8.6)の約49日後に発生しており、大規模なプレート間地震が噴火のトリガーになった可能性が研究者の間で議論されています。プレートの動きが地震を起こし、その地震が噴火を誘発するという連鎖は、富士山周辺のプレート環境の複雑さを示しています。

富士山・伊豆半島周辺地形図
富士山・伊豆半島周辺の地形図(出典:国土地理院)

付加体が山に変わる:南アルプスの隆起

フィリピン海プレートが沈み込む際、プレート表面に堆積していた海底の堆積物は沈み込まずに削り取られ、プレートの縁に積み上げられます。この積み重なった堆積物を「付加体」と呼びます。

付加体を構成する岩石のひとつにチャートがあります。チャートはもともと深海底に堆積した放散虫(直径0.1mm程度のプランクトン)の殻が固まったものです。水深2000〜4000mの海底で形成された岩石が、プレートの動きで日本まで運ばれ、地殻の圧縮を受けて隆起し、現在では3000m級の稜線に顔を出しています。深海の堆積物が山頂近くに到達するまでの経路は、どう考えても遠回りです。

南アルプス(赤石山脈)の基盤の大部分は、このような付加体で構成されています。中生代から古第三紀にかけて形成された付加体が、フィリピン海プレートの押し込み力による水平圧縮を受けて数百万年かけて隆起し、現在の山脈を形成しました。北アルプスが花崗岩を主体とするマグマ起源の地質を持つのに対し、南アルプスは付加体という「拾い集められた海底の堆積物」を基盤とする、成り立ちの異なる山脈です。

南アルプスは現在も隆起を続けており、隆起速度は年間数mmのオーダーと推定されています。一方で、急峻な地形と日本有数の豊富な降水量により、侵食もきわめて速く進んでいます。隆起と侵食がほぼ釣り合っているため、山脈の高さはここ数百万年で大きくは変化していない可能性があります。フィリピン海プレートに押し上げられながら、同時に雨と川に削られ続けている山です。

関連記事:南アルプスの地質——付加体が作った3000m峰の正体

伊豆半島の衝突:プレートに乗った弧が本州に到達した

フィリピン海プレートの上には、伊豆・小笠原弧と呼ばれる海底火山の列があります。太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み込む際に形成された火山島弧で、伊豆諸島から小笠原諸島にかけて連なっています。

この弧がフィリピン海プレートに乗って北上を続け、約100万年前から現在にかけて本州(ユーラシアプレート)に衝突し続けているのが伊豆半島です。伊豆半島はもともと太平洋上に存在した海洋島弧であり、それが本州に付け加わったものです。伊豆の地質が周辺の関東・東海の地質と大きく異なるのは、もともと別の場所でできた地塊が運ばれてきたためです。

この衝突は現在も続いており、伊豆半島は今も少しずつ本州に押し込まれています。天城山(1406m)をはじめとする伊豆の山々は、この衝突による圧縮と隆起の産物です。現在進行中の衝突の上に乗っている山という意味では、伊豆の山は静止した地形として見るより、現在進行形の出来事の一部として見た方が実態に近いかもしれません。

この衝突はフォッサマグナの東縁とも深く関わっています。フォッサマグナ(大地溝帯)の東縁を構成する変形帯は、伊豆・小笠原弧の衝突による圧縮と変位の痕跡と一致しており、フィリピン海プレートの動きは日本列島の「継ぎ目」の形成にも直接関与しています。

関連記事:フォッサマグナと日本列島の継ぎ目——大地溝帯が生んだ地形の謎

登山ルートで地学を読む

富士山:溶岩流の跡を歩く

富士山の主要登山道(吉田・須走・御殿場・富士宮口)はいずれも、過去の噴火で流れ出た溶岩の上を歩くルートです。御殿場口ルートでは宝永山の火口壁を間近に見ることができます。火口壁の断面には複数回の噴火による堆積層が縞状に重なっており、富士山が単発の噴火ではなく、繰り返しの積み重ねで現在の形になってきた山であることが断面から読み取れます。1707年の宝永噴火から300年以上が経過した現在でも、火口の形状はほぼそのまま残っています。

南アルプス:稜線に出てきた深海の岩

南アルプスの稜線を歩くと、緑がかった灰色の岩が散在している区間があります。付加体を構成するチャートです。仙丈ヶ岳や赤石岳の登山道でも踏む機会があります。急登で息が上がっているときに足元を見ると、もとは深海2000〜4000mにあった岩が転がっています。体力の消耗と岩の来歴は完全に無関係ですが、岩の方のスケールはかなり上をいっています。

南アルプスには北アルプスのようなカールや氷河湖といった氷河地形は顕著ではありません。隆起速度と降水量がともに大きいため、氷河が地形を整える前に河川侵食が進んでしまったと考えられています。V字状に深く切れ込んだ谷と急峻な尾根は、侵食が卓越している山脈の典型的な地形です。

プレートの動きはまだ終わっていない

フィリピン海プレートの沈み込みは現在も進行中です。南海トラフではプレート間の固着と周期的な解放(巨大地震)が繰り返されており、過去の記録からは100〜200年に一度の間隔で大規模地震が発生してきたことが確認されています。地震そのものが、プレートが今も動き続けていることの証拠です。

富士山のマグマの供給は継続しており、次の噴火がいつ起きるかは現時点で特定できません。南アルプスも今日も数mmの単位で変動しています。登山者が歩くルートの標高は毎年わずかに変化している可能性があります。計算はできますが、登山靴のサイズ選びに反映させる人はおそらくいません。


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